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社説
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2008年4月12日

五輪聖火リレー/対話こそが解決へ導く知恵だ

 北京五輪の聖火リレーが欧米の行く先々の都市で事実上、立ち往生に陥る異常事態となった。

 問題は、ギリシャのオリンピアで先月二十四日に行われた採火式から「国境なき記者団」活動家の乱入という形で始まった。それで、平和と融和の象徴である聖火は、およそ五輪にはそぐわない、物々しい警備に囲まれ、人々の祝福ではなくブーイングの中を行くリレーとなった。

大いなる皮肉の「調和の旅」

 この六日のロンドンでは、三十人以上の活動家が拘束されたが、人々の非難は活動家よりも中国に向けられた。危うくトーチを奪われそうになった女性タレント走者までが「走者に加わったからといって、中国を見逃すつもりはない」と語っている。

 聖火は翌七日のパリでも、沿道で相次ぐ抗議・妨害の嵐に遭遇、トーチの炎を消したり、バスに避難したり、コース短縮で途中打ち切りになったりと混乱した。パリ市庁舎には人権擁護を訴える横断幕が掲げられ、警備当局は催涙弾まで発射したが、抗議・妨害活動を止められなかった。

 米サンフランシスコでは一昨日、ついに聖火はまるで“お尋ね者”のようにコソコソと、中国に抗議する人も擁護する人も欺いて、予定ルートにはない誰も見ていない裏道や高速道路を走り、ゴールしたかも定かでないまま終了したのである。

 この後、聖火は南米、アフリカ、豪州などを巡り、二十六日には長野をリレーする予定だが、これでは一体、何のための聖火リレーなのか。

 聖火リレーと北京五輪が激しい抗議にさらされているのは、中国による人権を無視したチベット弾圧である。北京五輪の開催が決定した二〇〇一年、中国は五輪開催に向けて国内の人権状況の改善を約束したはずである。

 だが、それは全く果たされていなかった。そればかりか、五輪が近づくにつれ中国当局の取っている措置は、チベットなどへの締め付け強化、弾圧強化だった。

 人権問題に敏感な欧米諸国にとって、中国の約束は舌先三寸の出任せで“裏切り”だと映ったとしても無理はない。その上、聖火リレーを「調和の旅」と言葉で飾られたのでは、“悪い冗談”か“大いなる皮肉”と言うしかあるまい。

 「人間存在の最も初歩的な尊重と結び付くヒューマニズムを欠いて、五輪精神に何の価値が残るのか。この精神を侵害するのは……中国の指導者たちである」(仏紙ルモンド七日付)

 中国のチベット対応をめぐって、英、独、ポーランド、チェコなど欧州連合(EU)各国を中心に首相ら首脳の北京五輪開会式欠席の動きが広がっている。

 フランスも「対話を条件に考慮」の姿勢であるほか、国連事務総長の欠席も取りざたされている。また、米上下両院やEU議会では、中国非難決議がいずれも圧倒的多数で採択されている。

 こうした中、一貫して中国の北京五輪開催を支持し、聖火リレーへの抗議もあくまで「非暴力で」と訴えてきたのが、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ十四世である。求めているのは独立ではなく、「内政、文化、宗教をチベット人が担当する高度な自治」だ。

世界の大勢を直視せよ

 中国は、チベットに深い同情を寄せる世界の大勢を直視し、混乱が火災に広がるのを「聖火の立ち往生」程度で押し止める知恵を示すべきだ。それがダライ・ラマ十四世との対話であることを認識する必要がある。


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