2006年11月06日

DEATH NOTE the Last Name 80点(100点満点中)

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公式サイト

今年6月に上映され、(一部を除いた)原作ファンにもそうでない人にも好評を博した映画『DEATH NOTE』の続編にして完結編

この3連休、上映劇場は超満員でグッズもパンフも完売と、関係者の予想を上回る絶好調ぶりを今回も見せているが、これは、公開直前にテレビ放送された前編の内容が視聴者に評価され、続編に対する期待を大きく煽られた事が、主要因の一つになっていると考えていいだろう。

公開規模があまりに小さすぎたせいで、超満員・グッズ品切れの事態に陥った『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』の様な例とは違い、一つのシネコンで2つも3つもスクリーンを占拠し、1日に10回以上も上映されている現状において、この盛況ぶりは紛れも無い大成功だ。

もちろん作品自体の出来も、大ヒットに値する、観客の期待を裏切らない、充分に完成度の高い娯楽作に仕上がっている事は言うまでもない。

長編漫画を映画としてまとめあげる上で、基本的には前編と同じ方向性で作られてはいるが(前編のレビューはこちら)、今回は、"第二のキラ編"から最終回までと、前編に比してもあまりに多くのエピソードが消化されており、尺が30分長くなったにもかかわらず、密度はかなり濃くなっている

オシシ仮面特に、"ヨツバ編"と"第三のキラ編"を、全く違和感のないかたちに融合させた改変センスは見事なもので、「Lが死んだと思ったら、場面が変わって後継者が現われた」なる、『ライオン仮面』を地で行く原作のいらない部分を大幅に省略した、全てのシーン、全てのキャラクター、全ての台詞・行動が、全く無駄のない、計算されつくされた構成として存分に楽しめるものとなっているのだ。

ストーリーやキャラクターを整理して、時間の短縮を計るとともに、原作にあった矛盾点や突っ込みどころを、例えば「どう見ても普通のノートですよね」の台詞など各所において、可能な限りフォローする様留意されているだけでなく、前編のラスト同様、"ノートのルール"を原作には無い形で利用したトリックを新たに見せ、原作未読者のみならず、原作ファンですら唸らせてしまう場面など、「後出しだから当然」というレベルを超えて、原作を徹底的に読み込み、理解した上で、練りに練られた脚本の完成度は賞賛に値する。(ここまで親切丁寧に、わかりやすく描かれたものを「わからない」「不整合がある」と言うのは、それはもう見る側の問題だ)

これは、単に原作と同じ話をそのまま映画の尺に合わせてダイジェストで見せられる様な、芸の無い、そして漫画を読めば観る必要すらない"漫画の実写化"などではなく、原作を尊重し、面白さを理解した上で、漫画の映画としても、独立したひとつの映画としても、どちらの方向でも楽しんで鑑賞できる作品を作ろうとした、金子修介監督をはじめとする、製作スタッフ達の意欲的、創造的な挑戦であり、それは結果的にも大成功している。

原作と映画の大きな違いは、ストーリーより何より、まず"人間"の描き方にある。

原作において、"退屈な天才"月をはじめとする、あらゆる登場人物は、あくまでもゲーム的ストーリーを進めるための駒としてしか扱われておらず、"生身の人間"として描かれていないのだ。小畑健による硬質な作画が、そのクールさに拍車をかけており、現実感が薄く、感情移入を拒否され俯瞰的にストーリーの進行を追う作品となっている。(それがイコール悪いという事はなく、あくまでも方向性の違いだ)

一方の映画では、月は正義の理想を追求する若者として紹介され、その理想がデスノートとの出会いで歪んでしまっていく様が、映画前編にて丹念に描かれており、同時に父・総一郎もLも、記号としての父親、ライバルではない、"一人の人間"としての描写が徹底されている。出目川ですら、より人間的なキャラクターとして描かれている。

今回から重要な存在となる海砂も同様で、原作の"(月にとっても作者にとっても)都合のいいバカ"というだけではなく、凶悪犯罪の被害者である事をまず生々しく見せ、粧裕の叫びによって、"人殺し"を憎んでいたはずの自分が"人殺し"である事の矛盾に気づかされたり、親を殺された海砂が月の親殺しを知った時の葛藤など、一人の少女の心情・感情を存分に描いた、魅力的な"人間"として存在しているのだ。(演じる戸田恵理香の魅力が大きくプラスになっている事も事実だが)

この様に、一人一人のキャラクターを、各々の想いを抱いた"生身の人間"として描いた事により、それぞれの人物が生身の心情を吐露し合い、正義、命、法、裁き、などに対する各人の見解、作品のテーマと主張を自然なかたちで観客に提示する、終盤クライマックスの展開へと結実し、観客の感動を生む結果となったのだ。

特に月の最期などは、何の救いもなく突き放された原作とは異なり(あれはあれでいいが)、総一郎とのやりとりを通じ、父と息子の誇り高き対立と、悲劇的な結末が、決して御涙頂戴にならず、また俯瞰的にもならない、絶妙な感情移入具合で展開され、この部分は明らかに原作を超えたと言って過言ではないだろう。

これは、事件解決後のエピローグシーンも同様で、月を、夜神家を襲った"悲劇"を、Lの最期を、人情的な余韻あふれるものとし、多数の死者が出た凄惨なストーリーにも関わらず、後味の悪さをあまり感じない、救いのある印象とされている。

また、漫画の絵面を実写に置き換えた時に生じる"おかしさ"をも、本作では映画の魅力を高める方向に活かしており、特にLが取る様々な奇行は、あえて漫画的表現をディフォルメして見せる事で、密度の濃い、緊張感ある展開が続く中での、クスリと和める一服の清涼剤として機能し、流れに緩急を付けるとともに、観客のテンションをコントロールする役割も果たしている。

あるいは、金子修介の本領発揮とも言うべき、"女性を美しく、エロティックに見せる"表現は、かなり抑えめであった前編に比べ、今回は思う存分に発揮されており、戸田恵理香、片瀬那奈 、満島ひかりそれぞれを、パンチラや胸チラ、あるいはボディラインを強調する様な直球勝負ではなく、フェティシズム的観点でのエロティックさにこだわった撮り方で、彼女たちの美しさを大きく引き出した映像となっており、これもまた、ひとつの"娯楽要素"として成果を上げている。

対話や推理、洞察など、基本的に動きの少ない内容でありながら、移動撮影を多用する事で、飽きさせない映像を作っている、画面構成もよく出来たものだ。

超ドル箱の人気作品である事から、様々な方面からの干渉や要求があったと推測される状況においては、プロデューサーの並々ならぬ努力もあったと考えられ、よくぞここまで自由に作らせたものだと、感服する他ない。(おそらくはスケジュールの制限もきつかっただろうに)

CGのチープさやエキストラのわざとらしさなど、不満に感じてしまう点もあり、決して完全な作品ではない事は確かだ。が、本作は、前編も含め、"漫画の実写映画化"としては、現状の邦画界においては最高レベルの完成度と言って何の問題もないだろう。少なくとも、ここまでのものが出来上がるとは、誰も予想していなかったはずだ。

原作読者も未読者も、興味のある人は必見。もちろん前編を観てから。


蛇足:
海砂の一家惨殺現場の映像は、弟が階段で死んでいる点などから、『デビルマン』のパロディネタ?と思うがどうか。

tsubuanco at 17:10 │Comments(6)TrackBack(5)clip!映画  | 漫画

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この記事へのコメント

1. Posted by ルークofルーク    2006年11月06日 20:31
5 デビルマン・・・確かにそうかも・・・

後編良かったですよね。 超面白かった!ではないものの面白かった!
僕の行った映画館ではマナーが糞悪い餓鬼が居て・・・一喝しました。

あいつらがいなければもっと楽しめただろうに・・・
2. Posted by つぶあんこ    2006年11月07日 17:44
そういうのは映画館にも苦情入れておいた方がいいかもです。
3. Posted by ななし    2006年11月25日 00:25
みんな泣いてたね。
見事なレビューです。

4. Posted by つぶあんこ    2006年11月27日 16:40
お褒めの言葉どうもです。
5. Posted by 徒歩    2007年07月26日 01:24
4 映画館で観ましたが、先日レンタルで前後編見返しました。
そして深夜のアニメシリーズの最終話もたまたまですが先日観れました。

あんこさんの云う通り原作を越えた映画作品だと思いますね。勿論アニメ版も
人気連載の都合もあって引き延ばされたであろうストーリーも上手くまとめられてましたし、より感情移入しやすいラストも好感を持てました。

ただ良い出来だっただけに個人的に注文つけたいのは死神たちのCGですね。
原作に忠実なのでマイナス要素とまでは云いませんが、レムが役者と並んでいる絵は陳腐に見えてしまいました。
子供も観に来ていた作品なのでこれでいいのかとも思いますが、死神達のデザインは実写映画用にリアル路線にリメイクし直してくれればなおグッドでしたね。

デスノートは何より元ネタが良いので、原作に余りとらわれない映画版も観たかった気もします。
6. Posted by つぶあんこ    2007年07月26日 17:09
いっそ着ぐるみの方が面白かったかもです。

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