はてな?探偵団

41.「はだいろ」はいま? (2006/05/31)

学童用文具、別色名化進む

 学童用色鉛筆や絵の具などの色(しき)名(めい)「はだいろ」。八年前、「肌の色を固定観念化し、人種差別にもつながる」などという文具業界へのかねてからの批判を受け、大手メーカーの一つが薄いオレンジ色を意味する「ペールオレンジ」に全商品を見直した。これを機に、消費者らを巻き込んだ議論が起きたが、直ちに追随する他メーカーはなかった。今では、巷(ちまた)の話題に上ることはほとんどなく、当時の経緯を知る人も多くはない。「はだいろ」は今、どうなっているのか?(奥原大樹)

子どもたちが使う絵の具のチューブには「うすだいだい」の表記が…=芦屋市の「アトリエSincy」

▼「うすだいだい」

 「母の日」が迫った週末、子どもたち数人が画用紙に向かい、母親の顔を描いている。芦屋市の絵画教室「アトリエSincy」。テーブルの上にある、絵の具や色鉛筆、クレヨンの表示を確かめてみる。

  「『うすだいだい』が『はだいろ』と同一色」と、同教室を主宰する洋画家、松本伸(しん)子(こ)さん(45)が教えてくれた。「はだいろ」もあるが、「うすだいだい」も少なくない。「はだいろ」の現状は一体…。

▼美化された色

 財団法人「日本色彩研究所」(さいたま市)は「色としての肌色は、一般的に、本当の肌の色よりも明るくきれいで、美化されている」と説明する。また、色名としては、八世紀ごろに呼ばれていた「宍(しし)色(いろ)」が前身で、明治時代ごろに「はだいろ」となったというのが有力という。

  「はだいろ」の表記が問題視され、最初に色名を切り替えたメーカーは「ぺんてる」(東京)だ。一九九八年秋から、クレヨンや絵の具などの表示を、「ペールオレンジ」に変えた。「社内にもいろいろな考えがあったが、議論の末、九七年の中ごろに変更を決めた。九九年秋ごろには、全商品が新色名になった」と、同社お客様相談室。

  二〇〇〇年には、三菱鉛筆(同)、サクラクレパス(大阪市)、トンボ鉛筆(東京)の大手三社が、色鉛筆や絵の具、クレヨン、マーキングペンなどの「はだいろ」を「うすだいだい」に呼称変更し、表示を順次切り替えた。

  「学童文具に携わるメーカーとして、変えるべきと判断し、三社などで検討した結果、語感がよい上、日本人がなじみやすい和名であることなどから『うすだいだい』に決めた」とサクラクレパスの商品企画部。

  これを境に、色名変更が一気に進む。日本鉛筆工業協同組合(同)は「色鉛筆では現在、九割以上の商品が『うすだいだい』だろう」。日本絵具クレヨン工業協同組合(同)も「小学生向け商品のほとんどが、『ペールオレンジ』か『うすだいだい』」。「はだいろ」は、学童用文具から、ほぼ姿を消したという。

▼日本語から消える?

 八年前の「はだいろ」をめぐる議論。色名変更に対し、「長年使われてきた名称は守るべきだ」「当然だ」などの賛否両論があったという。その後、別色名化が進んだが、まだ“完全浸透”とはいえないようだ。

  宝塚造形芸術大学(宝塚市)美術学科助教授、村田大輔さん(洋画)は「『ペールオレンジ』や『うすだいだい』という新しい色名に違和感がある。限定的なイメージが強く、表現の画一化につながるかもしれない」と指摘する。また、兵庫県内のある小学校の校長は「児童に実際に聞いてみると、『はだいろ』の方が呼びやすい、という声が多い」と打ち明ける。

  ところで、大阪外国語大学(大阪府箕面市)国際文化学科教授の小矢野哲夫さん(日本語学)はこう述べる。「たかが色名と考えてはいけない。国際化が進む中、『はだいろ』という言葉自体、もはや使う必然性はない、といえるのではないか。言葉として、日本語から、長い時間をかけて、いつしか消えていく運命にあるかもしれない」

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