健康な出産のために妊婦が定期的に受ける問診、血液検査、超音波検査などの健康診査。厚生労働省は妊娠初期から臨月まで13−14回の受診が望ましいとしている。しかし健康保険は適用されず、1回当たり5000−1万円程度かかるため、経済的理由から受診しない妊婦もいる。 受診に対し公費負担がある回数(07年度、市町村平均)は、最高が秋田県の10回、最少が大阪府の1.3回、福岡県は2回で、自治体間の格差が大きい。
(2008年4月11日掲載)
●「財政難」で据え置き
大牟田市は、妊婦健康診査の公費負担回数を本年度、前年度と同じ2回にとどめる。県内市町村では最低の水準。国は自治体の負担回数として原則5回を示しているが、同市は財政難を理由に据え置いた。国を挙げて少子化対策に取り組んでいる中で、同市の対応には疑問が残る。
(大牟田支局・笠島達也)
▼県内で「最低」
妊婦健診の公費負担は、少子化対策とともに、経済的理由で未受診のまま病院に駆け込む母子ともに危険な「飛び込み出産」が社会問題化したことから、厚生労働省が2007年1月に回数増を打ち出した。
同省は、妊婦が通常受診する14回すべての公費負担が望ましいとした上で、「少なくとも5回程度の公費負担が原則」と事実上の「下限」を各自治体に示した。
それまではほとんどの自治体が2回負担をしていたが、同省の通知を受けて多くの自治体が08年度からの5回負担を実施し、県内で2回のままの自治体は全66市町村中、大牟田市や小郡市など5市町だけだ。
▼用途は縛らず
大牟田市の場合、公費負担を3回増やすためには、新たに約2000万円が必要という。
昨年11月の市長選で古賀道雄市長が「妊婦健診の年5回への段階的増加」をマニフェスト(政策目標を具体的に示した公約)に掲げて当選したことから、同市は08年度予算編成の中で回数増を検討。しかし「前年比一律5%削減」という編成方針の中で、「新たに盛り込まれた超音波検査分の約200万円を確保するのがやっとだった」(児童家庭課)という。
公費負担を増やすため国は07年度、地方交付税の少子化対策事業費を約700億円に倍増、08年度も約730億円に増やした。しかし「使い道は縛っていないので、公費負担の回数はあくまでも各市町村の判断」(厚労省母子保健課)。結果として大牟田市への増額分は、他用途に使われた。
▼次世代のため
市は本年度、赤ちゃんが生まれた家に、助産師や民生・児童委員を訪問させる事業など「お金のかからない子育て支援」に力を入れる計画だ。だが市民からは「久留米市は5回補助してくれるのに」と、不満の声も寄せられているという。
「どこに住むかで負担額に大きな差があるのは不公平。来年度からは5回に増やしてほしい」。大牟田医師会産婦人科会の深川弘一会長はそう要望する。同市の出生数は02年に年間千人を切り、07年は954人。人口千人当たりの出生数は7.4人と全国平均を1.3人下回り、少子化対策は急務だ。
古賀市長は、回数増に意欲を見せているが、来年度も財政が好転する兆しはない。「一律カット」という機械的な歳出削減ではなく、次世代のための政策判断が求められている。