「医療崩壊」。07年4月20日にあった母親たちの座談会で、この言葉を聞いた杉浦保子(29)は、兵庫県丹波市の県立柏原(かいばら)病院小児科の「崩壊」を実感していたことを思い出した。
この年の正月明け最初の日曜日だった。次男の颯太(そうた)(4)は前週末から気管支ぜんそくの発作がひどくなり休日診療所など三つの診療所を回ったが治まらない。午後8時半に同病院小児科に飛び込んだが30人ほどの患者で待合室は込み合っていた。呼吸困難に陥り、顔が白くなっていた颯太を見て、看護師はあわてて点滴を施した。
「ごめんよ。待たせて」。小児科医、和久祥三(わくしょうぞう)(41)が颯太の診察を始めたのは午前2時を回っていた。真冬というのに、顔は真っ赤で額に汗を浮かべていた。即座に入院が決まったが、小児科病棟には空きがなく、内科病棟へ。颯太をベッドに寝かせたのは午前4時。添い寝した杉浦もそのまま眠りこんだ。
目覚めると、ベッドサイドに和久の手書きのメモがあった。「処置しておきました。落ち着いているようです。午前7時30分」。杉浦は「先生、寝てないんや」と思った--。
杉浦は座談会でこの体験を話した。参加した母親たちの中で、普段から県立柏原病院に通っているのは杉浦ら2人だけだった。「先生は疲れてる。でも、もし柏原病院の小児科がなくなれば地域の子どもたちの命にかかわる」。杉浦の言葉が、子を持つ親の気持ちをつないだ。その場で「県立柏原病院の小児科を守る会」の結成が決まった。(敬称略)=つづく
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毎日新聞 2008年4月10日 大阪朝刊
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