2008-01-12 「なぜスカートをめくるのか?」「そこにパンツがあるからだ」
実録・自己責任教の信者たち
id:fromdusktildawn氏、ついこないだまでどうしようもなくアレなことばかり言っていたのに、ほかのところでは鋭いことを言うから困ったものだ。それ自体彼のスタンスなのだろうけど。
……と思ったけどね。最初は。ぼくがつけたブクマコメントを読んだヒナギクが泣いて怒った。あなたはなんにもわかっていない、と。うろたえてid:hokusyuなどを交えてやりとりするうちに、ぼくは自分の甘さを思い知らされた。そしてヒナギクに跪かんばかりにして許しを乞うことになった。チクショウどうしてくれる、fromdusktildawn。
このエントリは、ぼくの八つ当たり気味の反省文のようなものである。さてと。
「地道な努力」よりも、はるかに人生を好転させる努力の仕方 - 分裂勘違い君劇場
1ヶ月間だけ、思い切りがんばれば。より引用:
- 現状を変える一発逆転があると思うかもしれないけど、どうやら近道はないみたいです。
- 毎日少しずつ、少しずつ努力を積み重ねるしかない。まったく人生ってやつは。まったく。
違うよ。全然違うよ。
(中略)
しかし現実には、
常日頃から「一発逆転」するポイントを検出するための鋭敏なアンテナを張り巡らせ、
徹底的に「近道を探す努力」をし続けた人間こそが、
自分と、周囲と、社会と、世界を豊かにし、幸せにするのである。
「近道はない」などという、「地道な努力が報われる」教の信者の妄言に
惑わされて、1回しかない人生を台無しにしないようにしたい。
はじめに、id:guri_2氏の元エントリへのぼくの感想を述べる。思わず「web色紙売り」というタグをつけてしまうくらい嫌悪感を催した。id:setofuumi氏が、ああいう「みつを」シグネチャが付きそうな文章がウケてしまう背景についての考察エントリをお書きになったのでぜひ読んでいただきたいのだけど、彼の仰るとおり、あのような文章はある程度以上に恵まれた層、自分はダメだなあもっと頑張ろうと思える余裕のある層のあいだで流通し消費されるアイテムに見える。かのエントリ全体から漂う余裕臭というかリア充臭がぼくにはキツかった。翌日書かれた、でもこういうアドヴァイスは驕りだよねという自省エントリも、実に何というか、それ自体が驕りだろというか。
そして最初のエントリに、コロリとやられたブクマコメントの数々! エントリのコメント欄もそんなノリで、こういうweb色紙に感動できるくらいには充実した「平凡な人」たちがスピリチュアルとかのカモになるんだろうなあ、と嘆息した。みんなまとめて赤木智弘氏にひっぱたかれてしまえ、と思った。
で、fromdusktildawn氏のエントリについて。「地道な努力」教ウザい、は仰るとおり。今のところ成功と無縁の身であるぼくが言うのも滑稽だが、成功につながった過程にはすべて価値があり、地道な努力だろうが効果的な努力だろうが、努力とまるで無縁の濡れ手に粟だろうが質は変わらない。というか、そんな価値観は時代背景によっていくらでも変わるのであり、「うまくやった」ひとがもてはやされる時代もあったのだ。遠くはグリム童話やおとぎ話、近くは植木等の『無責任シリーズ』。そして最近だとマンガやアニメ、ライトノベルでは「最初から最強」型の主人公が活躍することも多い。先に、余裕のある層にしかああいうのはウケないと書いたことも考え合わせると、同時代でもクラスタによって努力に対する価値観は違うと言える。
そして――否、しかし、と言うべきか。ブクマコメントには、元エントリへの反感から思わず「そのとおり」とまで書いてしまったが(ヒナギク、ぼくはバカだった)、冷静に考えるとfromdusktildawn氏のエントリもまた、リア充にのみ通用するものだ。それもおそらくは、guri_2氏に感銘を受けた多くの「平凡な人」たちよりもはるかに有能な、いっそ勝ち組候補と言い換えてもいいような人々に。ブクマではいつもどおり論点のすり替えだという批判が多いが、実のところ努力の効率の話をしているのではない。ビジネスの話をしながら、言外に、地道な努力を尊ぶ人々のメンタリティを問題にしている。反シンデレラ、とでも言おうか。自分のやっていることは間違いじゃないんだ、がんばろう、と例のエントリから癒しを得ている「平凡な人」たちを、おまえたちは負け組だ、と斬って捨てているのだ。なにしろ「「近道や一発逆転を狙わないで地道な努力を積み重ねる」という姿勢が、/自分と周囲を不幸にし、/格差と貧困を生み出し、日本を衰退させてきた。」とまで言っているのだから。そして、効果的な努力=近道を探す努力=勝ち組思考をして豊かになれと煽っているわけだが、これが弱者に対してどのような態度を取ることを意味するか、説明の必要もあるまい。なにしろ、おまえがダメなのはおまえがそんな考えだからだ、と言っているのだから。
fromdusktildawn氏と、ぼくも含めて彼に同意した人々もまた、赤木氏にひっぱたかれるべき存在である。
guri_2氏もfromdusktildawn氏も、結局のところ自己責任教の信者なのである。自分の人生は自分でなんとかしろ。一見間違いではないが、しかし、自分でなんとかできるのはそれに足るリソースを確保できているひとだけではないのか? 彼らの視界からは、その段階にも達していないひとびとが見事に消え去っている。穢れたもの(ケガレ思想的な意味で)は見たくないとでも言うかのように。そして、そういうひとびとがそのようであるのは、彼らのせいばかりではない。fromdusktildawn氏が明言しなかったことを、guri_2氏ははっきりと「気持ちよく過ごせないのは周りじゃなくて自分が原因です。」と仰っているが(かのエントリで、もはや殺意にも似た反感を覚えた一文である。こんなにも、あまりにも奴隷根性!)、本当に周りが悪いことだってある。世の中が悪いこともある。さて、いったいどの程度の境遇のひとにまで、彼らは「自分が原因です」と言い放つのだろうか?
guri_2氏に関しては、それははっきりしている。
彼は元エントリのふたつ前にこのようなエントリを上げた。タイトルからして腹立たしいが。
自分がどんな生き方をしたいのかも決めずに世の中の文句を言うな - Attribute=51
・livedoor ニュース - 【赤木智弘の眼光紙背】第14回:今年も流れは変わらないのか
(中略)
「社会的価値」という点で見れば、確かに労働力(その人の価値)の代償として賃金があるわけだから、
賃金が人間の価値を決めているというのも間違いじゃない。
でもそんなの、数十年前からそうなわけで。
(中略)
年収が多かろうと少なかろうと、その生活に見合った苦労と楽しさが同じだけあると思うんです。
(中略)
今、1人で衣食住まかなって、多少遊べて、毎月貯金も1万円ぐらいできる年収っていくらぐらいなんですかね。
都内だと250万ぐらいなのかな。地方だともう少し安くいけるって聞いたことがありますが。
個人的にはこのデッドラインさえなんとか超えられたら、あとは「自分がどうやって生きていきたいか」にかかってると思うんです。
ふざけんなと思ったぼくは、速攻でコメント欄に乗り込んだ。以下、やり取りの全文である。
y_arim 2008/01/06 19:02 「自分がどうやって生きていきたいか」なんてことに頭を回す余裕があるのは結局デッドラインを「かなり」超えた連中だけで、まさに持てる者の贅沢な悩みである。ということをおそらく赤木氏は仰りたいのだろうと思いました。イラストブログの作者が服の皺をうまいこと描けるのも、どうにかそれをする年収が確保できているからという。
1対1の人間の価値は賃金だけでは確かに決まりませんが、実はそれもあるライン以上の賃金が確保されていればの話なのだ、としたら? 本当に救われない人々は、その1対1の人間関係ステージにも上れない、目に見えない存在なのだとしたら……?
guri_2 2008/01/06 20:54 そっか、そういう意図だったのか。うーん。
確かに持てるものほど頭を回す余裕があるかもしれません。そう見えるだけで実はないのかもしれません。その「かなり」が果たしてどのくらいの量なのかはちょっと気になるところですね。
ただ、月並みですが電気ガス水道をたびたび止められ、狭い部屋で共同生活しながらも夢を追いかけている友人を見ていると、デッドラインはいくらもで下げられるのでは、と思ったりします。
「1対1のステージ」というのもわかるにはわかるんですが、「ステージ」というほど敷居の高いものなんでしょうか。上がろうとするだけでいいと思うんだけど、それって酷な意見なのかな…。スイマセン、そこはちょっと現場を見てみないと想像がいかないです。
y_arim 2008/01/07 12:24 問題は、ご友人が「電気ガス水道をたびたび止められ、狭い部屋で共同生活しながらも夢を追いかけ」られるからといって、だから文句言わず夢を追え! などとはそういう境遇のひとびとに向かって言えないということだと思います。ご友人の生活は、ご本人がどうお考えになっているかはともかくとして、第三者のぼくが拝読する限りひどく苦しいものに見えるわけで。これでも夢を追えるんだからその苦しさを受け入れるように、とは誰も要求できないのではないか、と。もちろん政府も。
直接には関係ないことながらも、生活保護関係のニュースとネットでの反応を見るたびに漠然と考えるのですが、「健康で文化的な最低限度の生活」を制度で保障することと、「健康で文化的な最低限度の生活」を押しつけることは別なのではないかと。どうも後者を主張するひとが一部にはいるような気がします。
ご覧のとおりである。これこそが真の「上から目線」というものだ。赤木氏に象徴的な意味でひっぱたかれるどころか、目の前にいたらリアルでぶん殴られるんではなかろうか。こういうひとが「今は少し気楽に生きている自分のロジック」とやらを「同じ目線」(ブクマコメントやコメント欄より。だから、それはリア充向けの視線なんだってば!)で綴ったところで、その言葉は届かないよ、としか言いようがないのだ。
そしてfromdusktildawn氏については、これまで述べてきたように、またhokusyuがブクマで述べたとおりに、このエントリの裏返しでしかない。
ところで。fromdusktildawn氏はまたも、ろくな知識もないまま南京大虐殺に口を挟んだ一連のゴタゴタと同じ愚を犯している。
マルクスでさえ、「労働価値説」を信じていたぐらいだし、
ほとんど動物的なレベルで「努力に比例して価値が生み出される」ということが
正しいと思えるのが、人間という生き物なのだろう。
あのう。労働価値説ってどういうものかご存知?
彼と同じくアルファブロガー(らしいよ)のid:finalvent氏がまさに「マルクスの労働価値説」というエントリをお書きになっているので、そこから引用しよう。というか、Wikipediaの孫引き。
マルクス経済学では、交換される二財には、二つを釣り合わせる何かがあると考え、これを価値と呼んだ。交換は価値の等しい二財間で行われることになる。等しくなければ、どちらかが一方的に損をすることになり、いずれは交換が成立しなくなってしまうからである(等価交換の原則)。そして、これらの価値を測る絶対的尺度が、商品に投下された「労働量」である。価値は、抽象的人間労働によって生み出されるものであり、希少性や一時的な需要によるものでないとマルクス経済学では考える。(労働価値説)
諸々すっ飛ばして大雑把に言えば、商品の「価値」は投下された労働量によって決まる。そのような意味で、「労働」は「価値」を生む。ちなみにマル経用語で、「労働」と「労働力」は厳密に区別される。「価値」と「使用価値」も違う。(価値を)生む=「生産」ですら、「資本の生産過程=剰余価値が生産される価値増殖過程+使用価値が生産される労働過程」というクソややこしい定義がある(どうぞ、お調べになってください!)。
彼の素朴な書きっぷりは、このあたりの定義を理解していたとは思いがたいのだ。
それに、なぜ「労働」が「努力」にすり替わっているのか? その努力という語は労働価値説のどこから出てきたのだ? 地道な努力を積んでいけばそれに従って価値が生まれるという話と、マル経の労働価値説はまったく関係ない。文系ではあるものの、経済学は基本的に門外漢のぼくでさえ10分調べれば突っ込めることだ。いや本当に、いい加減な話をしないでいただきたいものである。
繰り返しになるが、結局guri_2氏もfromdusktildawn氏も自己責任教の信者なのである。彼らの言葉で救われた気になるひとびと(そもそもその程度の消費しかされない時点で色々とアレだ)には、こう問うておきたい。メッセンジャーでのhokusyuの言葉を借りることになるが。
不幸な人に自分が遭遇してしまったときに何をするかを考えてみよう。自分への不条理は自分を変えることでどうにかなるとする。では、他者への不条理は? その他者が変われというのだろうか? それはまさに自己責任論だ。guri_2氏ならばその他者を助けようとはするかもしれない。しかし、世界の不条理に眼を閉ざすなかで、その行為は意味があるだろうか?
最後に。ようやく表情を緩めたヒナギク、こう言った。でもあなたはまず働くことが先決よ。こういう風に物申せるのも、それに見合ったリソースのあるひとだけだから。
そのとおりだ、と思った。
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