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社説

2008年04月10日(木曜日)付

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党首討論―勝敗は民意に聞きたい

 党首討論はいつもこうあってほしい。そう感じさせるほど両党首の弁舌には力がこもっていた。

 「ひとつひとつの大事なことについて結論が遅いですよ! 民主党は」

 「私どもは国会運営について可哀想なくらい苦労しているんですよ」

 福田首相は、なかなか前に進まない「ねじれ国会」への恨み節をつぎつぎと小沢民主党代表にぶつけた。

 「結論の遅さ」を責められるべきが小沢氏なのか、首相自身なのかはともかく、ガソリン税や日銀人事をめぐる論争には聞き応えがあった。

 暫定税率が失効して年間2.6兆円の税収がなくなれば、地方自治体が困り、政府の財政再建にも支障がでる、と首相はいう。

 これに対して小沢氏は、地方分権を実現し、行政の二重三重のムダを省けば財源の心配はないと反論する。

 日銀の人事について首相は、元官僚であっても適材適所の人材を起用するならいいではないか、と主張する。

 日銀の総裁、副総裁のなかに必ず財務省出身者を置くという既得権益こそ問題なのだ、と小沢氏が切り返す。

 どう妥協するかを模索するよりも、互いに相いれない対立軸が浮かび上がっているように見える。

 それにしても、ついこの間までは想像もつかなかった変化が、政治の舞台で相次いでいる。

 日銀人事がひっくり返る。30年以上続いてきたガソリン暫定税率が失効する。インド洋で給油活動をしていた自衛隊は一時帰国を余儀なくされた。

 なぜ思い通りにならないのかと、首相が嘆く気持ちもわからなくはないが、それは参院選で野党に多数を与えた民意の反映にほかならないのだ。

 前回、1月の党首討論は極めて低調だった。その2カ月ほど前にあった大連立騒ぎが尾を引いていたためだろう、対決の雰囲気は乏しかった。

 それが今回、首相は「あの時の話は何だったのか」とばかり、政権揺さぶりにひた走る小沢氏の心変わりを批判した。大連立への心残りをようやく振り切ったということだろう。

 参院選以来の政局が本格的な対決局面に入ったことを、この党首討論は告げている。だとすれば、与野党がなすべきことははっきりしている。それぞれの主張をさらに明確に掲げ、説得力を競い合うことだ。

 たとえば、首相は道路特定財源の一般財源化で勝負をかけるというなら、それを確実に実現することだろう。民主党は地方分権について、もっと具体的なプログラムを示してもらいたい。

 政治が前に進まない原因は、自民党は衆院、民主党は参院の民意を言い、互いに譲らないことだ。新たな民意を問うべき時期にきていることだけは間違いない。

高齢者医療―お年寄りの不安を知れ

 制度が始まったその日に、とってつけたように「長寿医療制度」と言い換える。政府のそんな泥縄ぶりのなかで75歳以上の「後期高齢者医療制度」が動き出した。

 新しい保険証を持たずにお年寄りが病院を訪れるなどの混乱が各地で起きている。お年寄りの身になり、制度が変わることを分かりやすく伝えようと努力したあとが見えないのだ。

 15日には、年金からの保険料の天引きが始まる。国会では野党が、いつまでも解決しない年金記録問題と絡めて「年金をちゃんと払わずに天引きとはけしからん」と批判している。

 天引きをやめたところで、保険料を払わずに済むわけではない。それでも批判に共感が集まるのは、天引き後の年金で生活できるのかという不安感がお年寄りの間に強いからだ。

 制度改正から2年も準備期間があったのに、これまで何をやってきたのか。ずさんで役所の都合優先の仕事ぶり。年金問題で露呈したのと同種の病根がここにもある。厚生労働省は不安の払拭(ふっしょく)に努める責任がある。

 まず負担増の問題だ。対象になる約1300万人のうち、1100万人はこれまでも市町村国保などで保険料を払っており、厚労省は「負担は大きくは変わらない」と説明している。しかし地域によっては、低所得層で負担が増える現象も起きている。

 原因はいくつかある。保険料負担を軽くするため投入されてきた税金が、新制度へ移って減らされた。また、保険料の計算方式が、所得が多ければ多く負担する方式から、広く薄く負担する方式に変わったことなどだ。

 もし保険料を1年以上滞納すると、保険証を取り上げ、資格証明書に切り替える罰則が導入された。証明書になれば、病院でいったん医療費の全額を自己負担しなければならない。医者にかかりにくくなることだろう。

 所得が多いのに保険料を払わないのは論外だが、生活が苦しくて保険料を払えない人には、十分に配慮しなければいけない。時間をかけ親身になってお年寄りの相談にのり、保険料を減免する制度や生活保護をきめ細かく適用していくことが不可欠だ。

 75歳以上だけを対象にした制度自体に対する懸念もある。高齢化が進めば医療費はさらに膨らむ。その時、保険料はどこまであがるのか。保険料が引き上げられなければ、受けられる医療が制限されるのではないか。

 そんな不安が「うば捨て山のような制度だ」「後期高齢者という言葉はあまりに冷たい」という批判の根っこにある。税金の投入を遠からず増やさざるを得ないのではないか。

 新制度の意義ばかり説いたり、聞こえのいい名前に言い換えたりする前に、やるべきことはたくさんある。

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