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入手した調書、講談社内で使い回し 奈良・母子放火殺人

2008年04月09日21時22分

 奈良県の放火殺人をめぐる供述調書漏出事件で、調書を引用した単行本「僕はパパを殺すことに決めた」を出版した講談社が設けた第三者調査委員会(委員長・奥平康弘東大名誉教授)は9日、調査報告書を公表した。入手した調書を同社の三つの出版物で使い回し、その過程で取材源との約束が破られたと指摘した。(見市紀世子、小堀龍之)

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 報告書は、取材源の秘匿について編集者や社があまりに無防備、無理解だったと批判。「公権力の介入を招いた要因に筆者と出版社の脇の甘さがあり、表現の自由の保障に悪影響を与えた社会的責任は重い」と指摘した。

 筆者の草薙厚子氏や、事件を起こした少年を精神鑑定した医師ら15人への聞き取りを中心に調べた。報告書は、草薙氏の情報源が鑑定医だったと認定。06年10月、週刊現代の取材班とともに鑑定医と接触し調書をカメラ撮影。この時、医師との間で(1)調書をコピーしない(2)直接引用しない(3)医師が原稿を点検する、という口頭での「約束」があったとした。

 草薙氏は週刊現代と月刊現代に記事を執筆、さらに単行本を出版した。週刊誌と月刊誌に調書は直接引用されなかったが、単行本では、担当者が別部署の編集者に交代し、医師との約束が引き継がれなかった。しかも原稿は編集者が大幅に加筆。原稿やゲラの段階でも医師に見せなかった。報告書は「編集者が(約束の)あいまいさを『利用』し全面引用に踏み切った」「草薙氏には筆者としてのこだわりが薄く、取材源を裏切ることになるという発想に至らなかった」と指摘した。

 原稿やゲラを読んだのは筆者と編集者以外に5人おり、部局長や法務部も含まれていたが、捜査を受ける恐れを指摘して刊行中止を訴えたのは週刊現代編集長1人で、警告は無視された。報告書は「刊行前のチェック機能が働かず、だれに編集の権限と責任があるのか不明確」とした。

 鑑定医は秘密漏示罪で起訴され、14日に奈良地裁で初公判を迎える。

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 調査結果の公表を受け、講談社は9日会見し、「情報源秘匿に関する配慮を怠ってしまった」と謝罪する一方で、「本書刊行には意義があったと今でも考えている」との考えを示した。報告書で指摘された法的認識の甘さやチェック機能の不備を認め、社内に取締役を委員長とする「出版倫理委員会」を新設することを表明した。

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