暮らし  
トップ > 暮らし > 「技術は進歩、政策は後退」 河野美代子さん、広島の医療を語る

「技術は進歩、政策は後退」 河野美代子さん、広島の医療を語る

性教育で有名な産婦人科医の河野美代子さんの講演を聞きました。大まかな筋としては、今の医療は「技術」としては進歩している。しかし、「政策」としては後退している、ということを仰っていました。特に印象に残った点についてご紹介します。
広島 医療 NA_テーマ2

 3月30日午後、東広島市議の赤木たつおさんの後援会総会が市立総合福祉センターであり、産婦人科医の河野美代子さん(ブログ:河野美代子のいろいろダイアリー)から、医療の現状について記念講演をいただきました。

 河野さんは、今年61歳。医師になって10年間は、広島大学病院の産婦人科に勤務し、主に重症の患者を担当しました。その後土屋病院勤務を経て、1990年からクリニックを開業しています。性教育で有名な方です。

 大まかな筋としては、今の医療は「技術」としては進歩している。しかし、「政策」としては後退している、ということです。そのお話の中から、特に印象に残った点についてご紹介します。

■中堅病院が次々赤字、過重負担の勤務医が開業
 技術面で言えば、卵巣がんなどは、昔は余命半年だったが、今は、10年は生きられるようになりました。

 しかし、政策面はお寒い限りです。国の考え方はここしばらく、ずっと「医療費を抑制すべきもの」というものなのです。

 その結果、中堅病院が次々と赤字になり、人件費が減り、少ない医療従事者で患者を診療している状況です。次いでスタッフ一人一人の負担が過重になり、勤務医が過労状態で「疲れ果ててやめて開業」していくのです。

 また救急に従事する医師も絶対的に足りません。報道される「たらいまわし」も、医師がほかの患者さんへの対応に追われているから起こるのです。東広島では産科や小児科などの救急の拠点病院がなく、広島市や呉市に患者を送る場合も多いのです。

■医師バッシングによって、「60km行かないとお産が出来ない」惨状へ
 広島県内では、次々と中堅病院が産婦人科から撤退しています。ここ数年でも10病院が撤退しました。東広島では(地元では大きなことで有名な)呉共済病院も撤退しました。

 こうした傾向は、民事上のトラブルはもちろん、医師が刑事責任を問われる事件が増えたことから加速しています。なかでも福島県立大野病院の医師が逮捕された事件が及ぼした影響が大きいのです。

 あの事件は帝王切開の際に起きました。出産では、赤ちゃんが出た後に、胎盤が出ます。胎盤が癒着した状態は「癒着胎盤」といって、まだ手で取れるのですが、このケースでは、いわゆる滲入胎盤(完全に子宮と胎盤の組織同士がとけあっている状態)という状態になっていました。これは非常に難しく、4時間悪戦苦闘しましたが、お母さんは亡くなってしまった。それにより、医師は逮捕されました。多くの人が減刑を嘆願していますが、検察側は「あらゆる命を救えなかったら犯罪」といわんばかりの理論構成をとっています。

 「救えなかった命」はあるのは本当に悔しいのですが、やはりどうしても不幸にも、どうがんばっても結果として救えないことがあります。だが、刑事にまで問われてしまったのです。そのため、急激に産婦人科医がいなくなりました。

 そして、1人しか産婦人科医がいない病院は出産を扱わないことになり、さらに広島県では3人いないとお産を扱わないという「集約化」が進みました。その結果、庄原市東城町では、60kmはなれた三次市までいかないとお産ができないのです(この地域は、私がかつて勤務していたからわかりますが、雪で路面が凍結することも多い地域です。車で急ぐのは大変危険です)。

 しかし集約化を推進する医師は、「そういうところ(集約化された病院から離れたところ)に住んではいけない。お産が住んだら、そこへ戻ればよい」という見解なのです。

■日本は医療にもっとお金を!医者にも人権を!
 この4月にスタートする後期高齢者医療制度は、有無を言わさず、保険料を天引きします。そして75歳以上の方にも一割を負担させます。さらに、わざわざ、「あなたはこれだけ使った」ということまで通知するのですが、これでは「病気になっても医者にかかるな」といわんばかりです。

 今はそのように、医療費の抑制に躍起になるのではなく医者を増やすべきです。そして医療にしっかりお金をかけるべきです。

 医者を増やせば、睡眠も十分取れるようになって、過労による事故も減らすことができます。最低限、医者も人間らしい生活ができるようにすべきです。

 政府は、医療費が高騰しているといっています。日本の医療費のGDP比は、OECD30か国中22位に過ぎません。人口一人当たりの医師数も、OECDの平均以下です。先進国では医療費はかかってあたりまえです。国民の命を守らず、何の国家でしょうか?介護や福祉、医療には国がお金をかけるべきです。

■感想
 私も仕事上、県内の医療の窮状はみています。勤務医が基準に足りないと当然、増やしてくださいと病院に県が指導します。その場合、たとえば「1.8人足りないところで、0.1人ようやく増やしました、あと1.7人を努力します」、という回答が県に返ってくるわけです。だが、常勤ではなく、たいてい、大学病院の先生のアルバイトなのです。

 むしろ、勤務医で患者に人気だった先生が、開業していくケースが多いのです。一時期、マスコミなどが一部の「セレブ」な医者だけを取り上げ、激しく医者をたたきすぎたとおもいます。また、小泉純一郎さんら新保守主義者がそれに便乗して医療への予算を抑制してしまった、と思います。 今、政治が緊急に手を打たないと本当に大変なことになると思います。
◇ ◇ ◇

ご意見板

この記事についてのご意見をお送りください。
(書込みには会員IDとパスワードが必要です。)

メッセージはありません

記者会員メニューにログイン

記者ID

パスワード