原爆症の認定基準見直しを受け、国の新基準に基づく初の審査が行われた。被爆が原因でがんなどにかかったとして、原爆症の認定を求めた六十九人のうち六十三人が認められた。残る六人は書類不備などで保留され、却下はなかった。
被爆者が原爆症に認定されると、医療特別手当が国から支給される。六十三人の中には、従来の基準では認定されず集団訴訟に踏み切った原告十六人も含まれた。形としては問題解決に向け大きく前進したかのようにみえるが、先行きは不透明と言わざるを得ない。
今後、新基準から外れ認定されない原告がでる可能性があるからだ。全員救済を望む原告団などは、今回の認定は歓迎しつつも、新基準のさらなる見直しを求める中での審査開始は「見切り発車」と批判する。病に加え、老いとも闘いながら訴訟を続ける原告たちの複雑な心境は察しがつく。
新基準は全国十五地裁・六高裁で係争中の集団訴訟で、国が六連敗したのをきっかけに導入された。従来は放射線の影響で特定の病気になる可能性を数値化した「原因確率」に基づいて審査されてきた。
新基準は「爆心地から約三・五キロ以内で被爆」「原爆投下後、約百時間以内に爆心地付近に入った」などの条件を満たし、がん、白内障など五種類の疾病にかかった場合、積極的に認定することになった。それ以外の人は被爆状況などから個別に審査する。
要するに科学的知見ばかり重視するのではなく、被爆の実態に即した救済の姿勢に転換したといえる。放射線の人体への影響は未解明な点が多く、被爆と発病の因果関係の証明には限界があるためだ。ただ、新基準でも爆心地からの距離や対象疾病の限定などで「線引き」があり、被爆者の思いを十分に受け入れたとは言い難い。
厚生労働省によると、審査を待っている人は二月末現在で約千七百五十人いるという。集団訴訟の原告で言えば、約三百人のうち新基準で積極認定の対象になるとみられるのは半数程度とされる。残りの人は個別審査に回るが、疾病の種類やわずかな距離、時間の違いで、認定の判断が異なるようなことは到底納得できないだろう。
混乱回避のため、個別審査では「疑わしきは救済」という姿勢を明確に示す必要があろう。さらに高齢化が進む被爆者の声に耳を傾け、場合によっては新基準の見直しや訴訟解決に向けた政治決断など柔軟な対応が求められる。
岡山県はアジアの富裕層をターゲットに、白桃やマスカット、ピオーネといった特産果物の輸出強化に乗り出す。「くだもの王国おかやま」を世界にアピールするためにも積極的な展開を期待したい。
県が県農協中央会などと協力し、海外市場の開拓を目指す「おかやま農産物輸出促進協議会」を設立したのは二〇〇五年二月だ。昨年七〜十月、特設店舗「岡山屋」を期間限定で初めて海外展開し、白桃など県を代表する高級果物を販売した。
タイ・バンコクの百貨店に十日間、台湾・台北の百貨店に九日間、香港の高級スーパーに七日間の開設だったが、国内の二、三倍の値段にもかかわらず完売し、計約四百二十万円の売り上げがあったという。
県は今年も同時期に同じ店舗で特設店を設け、一層の浸透を図る予定だ。また品質を落とさずに安定輸送する研究に取り組むほか、香港での国際見本市への出展などを通して市場調査も行い、新たな販路開拓への足掛かりにしたい考えだ。
日本の農業は、海外からの安価な輸入品に押され、低迷気味だ。政府は「攻めの農政」実現に向け、農林水産物・食品の輸出額を現在の約四千三百億円から一三年までに一兆円規模に伸ばす目標を掲げている。
国内市場が伸び悩む中、有望な海外市場として注目されてきたのが、経済成長に伴って富裕層が増えているアジアだ。日本の果物の輸出額は輸入額の約三十分の一にすぎず、農林水産省もタイなどを果物輸出の重点国と位置付けている。
岡山産果物の輸出強化は、岡山の味覚を海外に発信する好機といえよう。世界に通じるブランドに育てることで農家の生産意欲も弾みがつき、県内農業の活性化にもつながろう。
(2008年4月9日掲載)