モーツァルトの部屋
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◆モーツァルトのオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」を観て(新国立劇場)♪♪

平成18年2月11日(土)









  
 先週の土曜日の午後、東京初台にある新国立劇場で公演されていたモーツァルトのオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」を観てきました。今年はモーツァルト生誕250年で、海外だけでなく国内のいろいろなところでもモーツァルトのオペラが上演されるのでモーツァルト大好き人間にとっては嬉しい限りです。

 「コジ・ファン・トゥッテ」ですが「ドン・ジョヴァンニ」「フィガロの結婚」とともにモーツァルトの「ダ・ポンテ三部作」として知られる最後の作品です。そのストーリですが、簡単に言ってしまうと3人の男性の間で女性の貞操に関して議論したのが発端となって女性に貞操があると主張する2人の軍人が、それぞれのカップルの恋人を交換することによりそれを証明させてみせるという他愛のない喜劇です。

 この作品は、男女の感情の機微や人間の本質や愚かさを鋭く描き上げた傑作だと思います。「コジ・ファン・トゥッテ」とは「女はみんな、こうしたもの」の意味で揺れ動く女心を浮き彫りにしたもので、内容は男と女のかなりきわどいものだと思っています。ですから観る側は、はらはらどきどきである意味では面白いのかも知れません。

 そもそも人間の世界は、何事も奇麗ごとだけで済まされることはなく、人間の中にはどろどろとしたものがあるのです。人間のもつ感情やエロス、さらにセックスに対する欲望はだれでも持っており、それが衣服の下に隠れていて他人に分からないだけなのです。

 ここで問題となるのは感情と理性との対立だと思います。この2つの相対するものとの対立のなかで、人間はある時は感情へ、またある時は理性の方へ流れて行動しているのです。

 これらは、どちらも正しいものですが、全て理性だけで生きている人間がいたとしたらそれはお化けではないかと思います。人間は弱いから弱いなりに悩んで次のステップに進むところに人間としての価値があるのだと思うのです。

 このダ・ポンテの台本は、当時の時代の考え方よりかなり進んだものとなっていたのではないかと思います。事実このモーツァルトの音楽は、この上もなく美しいのにも係わらず当時このオペラは成功したとの記録は残っていません。

 さらにモーツァルトを理解し支援をしていたヨーゼフ2世がこのオペラの注文をしたのですが、完成後2回ほど上演された後、このヨーゼフ2世が亡くなってしまい上演打ち切りになってしまった不運のオペラなのです。

 このオペラですが二重唱をはじめ三重唱、四重唱、五重唱を巧みに活用してモーツァルトがそれぞれの人間の感情の交錯を表現している点はやはり天才音楽家だと思ってしまうほどです。

 また、独唱とこれらの重唱の比率ですが12対19と圧倒的に重唱が多いのが特徴です。それだけ、このオペラで人と人との間の感情の動きを表現することが重要であったとの根拠になっていると思います。

 さて、当日の演奏ですが指揮:オラフ・ヘンツォルト、演出:コルネリア・レプシュレーガー、美術・衣裳:ダヴィデ・ピッツィゴーニ、照明:磯野睦、合唱指揮:三澤洋史、合唱:新国立劇場合唱団、管弦楽:東京交響楽団で、独唱者はフィオルディリージ:リカルダ・メルベス、ドラベッラ:エレナ・ツィトコーワ、デスピーナ:中嶋彰子、フェルランド:高橋淳、グリエルモ:ルドルフ・ローゼン、ドン・アルフォンソ:ヴォルフガング・シェーネでした。

 特に独唱者の中のデスピーナ役の中嶋彰子とフェルランド役の高橋淳はともに素晴らしい歌を披露しており、日本もかなりのレベルに到達しているのだと再認識しました。

 このオペラに関して、CDでは良く聴いていましたがやはりオペラハウスで観ると全く違う世界が広がり、2幕で3時間のものでしたがあっという間に終わってしまいました。モーツァルトの音楽の内容の濃さに改めて感心してしまうほど、人と人との感情の移り変りを音楽でぴったりと表現しているものでした。この点に関してだけ言えば、過去に観た「ドン・ジョヴァンニ」「フィガロの結婚」「魔笛」を超えた傑作だと正直に思いました。

 東京交響楽団の演奏も立派でした。ふと思ったのはこのようにオペラを演奏しているオーケストラは最終的には表現力や全体的なまとまりも出てくるのだと思いました。NHK交響楽団にもこのようなオペラを演奏する仕組みを作るとさらに質の向上が図れると思いますが、その背後にはビジネス上の問題や音楽界全体の問題があり、そう簡単に実現しないのだと勝手に想像してしまいます。

 最後に初めて足を運んだ新国立劇場ですが、字幕を表示する装置がちょっと高い位置にあり見にくかった点を除けば、音の響きも良く満足しました。今年の秋にモーツァルトの「イドメネオ」が上演されるので、是非とも観たいと思いました。


 今回の写真等は 新国立劇場のホームページより借用 しました。

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