八月に開かれる北京五輪の聖火リレーが中国政府のチベット政策に対する抗議活動で妨害されている。暴力は許されないが、事態の沈静化には中国とダライ・ラマ十四世の対話再開が必要だ。
ロンドンとパリで行われた聖火リレーは、チベット騒乱への中国の対応に抗議する妨害活動が相次いだ。パリでは混乱を避けるため二度も聖火が消され、リレーそのものも途中で打ち切られた。
「平和の祭典」であるべき五輪の聖火リレーが中国政府の派遣した防衛隊など何重もの警備陣に取り囲まれ、怒号の中で進むこと自体が嘆かわしい。
いかなる理由があれ暴力は許されない。しかし、中国政府のように「五輪精神を汚す卑劣な行為」(外務省スポークスマン)と批判し、厳重警備を求めるだけで事態は改善するとは思えない。
五輪憲章も「平和でよりよい世界をつくることに貢献する」ことを掲げている。人権や言論・表現の自由の擁護もオリンピック運動の目的である。激しい抗議の背景にチベット騒乱への対応に国際的な疑問が広がっていることを中国政府は直視しなければならない。
各国オリンピック委員会連合(ANOC)も北京五輪への参加を確認するとともに、中国政府に対しチベット問題の平和的解決に期待するという文言を盛り込んだ宣言を採択している。
事態の沈静化のためには十日に訪米の途上、日本にも立ち寄るチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ十四世との対話を再開することが欠かせない。
同十四世は六日、中国政府に独立ではなく高度な自治を求める立場をあらためて表明した。チベット人に暴力と五輪への妨害を停止するよう呼び掛けている。
中国政府と対話する共通の土俵がないとは思えない。同十四世を「人面獣心の悪魔」(張慶黎チベット自治区共産党書記)などと攻撃し反感をあおることが、事態の収拾に役立つだろうか。
それにしても福田康夫首相のチベット問題への対応は心もとない。「声高に批判したり、北京五輪と関連付ける」ことに疑問を表明し発言を控えている。
チベット騒乱から初の中国国家元首の外遊として胡錦濤国家主席が五月上旬、来日する。国際的に関心が強いチベット問題も問わないなら、西側諸国の日本に対する不信も広がるだろう。早急に事態への懸念を表明し、対話の再開を呼び掛けるべきだ。
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