2008年4月9日(水) |
安全なはずの医療行為の最中に家族が予期せぬ形で死亡した場合、遺族は医療過誤ではないかと疑い、怒りと悲しみを募らせることがある。外部からは手術などの実態が分かりにくいだけに、医療機関から十分な説明がないと、真相を隠しているのではと不信感に拍車がかかる。 一方、医療機関では、手術中の正当な医療行為であるのに、患者が死亡したとして医療訴訟を起こされるのであれば、リスクの高い手術は避けようとする意識が働くなど、現場が萎縮(いしゅく)しかねない。 医療事故をめぐって、遺族と医療機関が不信感と警戒感を募らせるだけでは、医療現場の改善は進まない。双方が信頼できる組織の設置が求められていた。 厚生労働省は、専門家が医療死亡事故の原因究明に当たる第三者組織を創設することとし、その第三次試案を明らかにした。 新しい組織は「医療安全調査委員会(仮称)」。大きな飛行機事故や鉄道事故が発生した場合、原因究明に当たる「航空・鉄道事故調査委員会」にならって、「医療事故調」と呼ばれる。全国八カ所の地方委員会と中央委員会で組織。二年後の二〇一〇年発足を目指している。 試案によると医療機関は(1)医療過誤が疑われる患者死亡事例(2)医療行為によって予期せぬ形で患者が死亡|の場合は、医療事故調に届け出なければならない。また遺族が納得できなければ、死亡原因の究明を求めて、医療事故調に届け出ることもできる。 届け出を受けた医療事故調は、事例ごとに医師や法律家、患者の立場を代表する市民らで専門チームを結成。遺体の解剖やカルテの調査、関係者から聞き取りを行い、死亡原因を明らかにして、公表する。 医療行為に問題があったとされると、医療機関と医師が行政処分の対象になる。 これまでと違うのは、医療事故調は、医師個人の責任を問うよりも、調査報告書を作成・公表するなど、医療機関の再発防止に重きを置いていることだ。 ただ(1)故意や重大な過失が認められる(2)過失による医療事故を繰り返すリピーター医師による行為(3)カルテなどの改ざんや隠ぺいが認められる|など、悪質なケースは警察へ通報する。 医療事故の調査は医療事故調に一本化し、警察の捜査に優先する。医療について専門外である警察や司法に比べて、専門家で構成する事故調が原因の究明に当たるのは合理的といえる。 しかしそれは医療事故調の公正・中立が守られるということが絶対条件。医療関係者同士が身内に甘く、かばい合うということにでもなれば、患者側からの信頼は崩れてしまう。 厚労省は医療事故調への届け出は年間二千件ほどになると推計している。少ない数ではない。 全国的に医師不足が深刻になっているなかで、医師や法律家が十分に時間を取って原因究明に当たることができるのか、早くも危ぶむ意見もある。 医療事故調が、遺族や医師双方にとって、信頼される組織となることが大事だ。運営方法など、詰めていくべき課題は多い。 |