「保険証が届かないので病院にかかれない」。4月にスタートした長寿(後期高齢者)医療制度。国による周知不足もあり、新しい保険証を持たずに病院を訪れ、引き返すお年寄りも出ている。自治体からは「苦情が多すぎて対応しきれない」と悲鳴も上がる。【稲田佳代、真野森作】
東京都日野市に住む大学教授の男性(64)は約10年前、埼玉県所沢市から母親(87)を呼び寄せた。郵便物は日野市に転送するよう、毎年郵便局に届け出てきた。2日に母親の健診があり、妻が病院に付き添ったところ「新保険証がなければ全額負担になる」と言われ、引き返した。男性は「新しい保険証が必要と知らなかった。必要な郵便物は転送されてくると思っていた。制度が始まるまでに確実に届けるのが市の責任だ」と憤る。
病院側も対応に苦慮している。
順天堂大医学部付属順天堂医院(東京都文京区)では既に、新保険証を持っていない高齢者が外来に訪れ始めている。保険証がない場合は全額自己負担を求めざるを得ず、「月が替わって突然高額を請求された」と怒る人も。米沢和彦・同医院医事課長補佐は「保険証以外に確認方法がなくお金をいただくしかないが、納得できない人もいる。新制度自体あまり浸透していない」と話す。
東大医学部付属病院(同)には1日数十人程度、新保険証を持たない患者が訪れる。このうち、保険証が届いていない患者については、広域連合に保険資格の有無を個別に確認しているという。
所沢市福祉総務課は3月19日に約2万5000通を発送したが、受取人不在などで約600通が戻った。このうち約200通が「転送不要」としたことが原因だった。市の窓口まで取りに来る人や、新制度に関する問い合わせの電話が相次いだことで対応が遅れ、4月3日にようやく約200通を「転送可」として再発送した。
所沢市に県の広域連合から市内分の保険証が届いたのは3月17日。市担当者は「市に届いたのが遅く、住民への発送も遅くなったうえ、戻ってきたものが想定した以上に多い。昼食の時間が無いほど苦情電話がかかっていて、対応を考える時間もなかった」と釈明する。
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■ことば
75歳以上や、65~74歳で重い障害がある高齢者を対象にした医療保険制度。原則として年金から保険料が天引き(特別徴収)され、従来は保険料を支払わなくても済んだ被扶養者にも保険料負担が生じる。窓口での医療費負担は原則1割。保険料は、一律に負担する「均等割」と前年所得に応じた「所得割」の合計から算出される。年収が少ない人は均等割が軽減される。
毎日新聞 2008年4月9日 東京朝刊