ここから本文エリア 夜の老健施設 救急どう判断2008年04月08日
甲府市内の老人保健施設で1月17日夜、93歳の男性が亡くなった。夜勤の看護職員が、熱を下げる座薬を処置していたが、結果的に「心肺停止状態になってから医師を呼んだ」(老健施設の関係者)という。老健施設は夜間、看護職員が1人しかいないところが多い。厚生労働省は今、老健施設や特別養護老人ホーム、自宅などでの療養を推進しているが、今回のケースは、救急の判断の重要性を示す一例だ。 ■遺族「納得できない」 「遺族からしてみれば、分からない死に方。本人も寂しく死んでいった」 三郎さんは07年3月、自宅近くの病院から甲府市大津町の老健施設「大津ケアセンター」(清水一重施設長、定員90人)に移っていた。 今年1月17日夜、光二さんが夕食を取っていた時、(老健施設の)事務長から緊急事態が起きたことを知らせる電話を受けた。老健施設に着いたのは午後9時9分。部屋に駆けつけ、ベッドのカーテンを開けると、三郎さんは亡くなっていた。診断書の死亡時刻は「午後8時50分」で死因は「急性心不全」、発症から死亡までの期間は「約1時30分」と書かれていた。 光二さんは「救急の判断は適切だったのか」と疑問に思い、問い合わせた。老健施設が送ってきた「病状報告」(2月6日付)には、時系列で状況が明記され、最後に「病院に転送すべきだと思いましたが、時間もなく急変し、対応できなかった」とあった。 ■施設「医師の到着待っていた」 救急車をなぜ呼べなかったのか。利用契約書の説明書には、市立甲府病院などと「緊急時の診療・入院治療」の契約がされているとあった。 朝日新聞の取材に、老健施設の丸山善仁事務長と泉千代子看護師長はこう説明した。 三郎さんは17日、「脚のふらつき」や「胸のへんがおかしい」と訴え、夕食はベッドで食べたという。午後6時10分、夜勤の准看護師が熱を計ると38・2度だった。自宅にいた医師から、指示を受けて熱を下げる座薬を使った。 老健施設には、介助などをする介護職員と、医療をする看護職員などがいる。夜勤の看護職員は1人。入所者は76人。巡回を終え、午後6時40分ごろ、准看護師が三郎さんのベッドをのぞくと、嘔吐(おう・と)や胸の不快感を訴えていたという。准看護師は、帰宅していた副看護師長に来てもらうよう手配し、夜勤の介護職員2人が付き添った。泉看護師長は、「顔面蒼白(そう・はく)で危険な状態と判断したから」と説明する。 午後8時ごろ、准看護師が巡回して来た時には、容体が悪化していた。8時10分、血液中の酸素飽和度を調べると90%。泉看護師長は「反応がない状態だと思う」と言う。残っていた事務長は、医師や光二さん宅に電話で連絡をした。泉看護師長は「この段階で医師を呼んだが、心肺停止状態だった」と説明する。病状報告にも、8時15分の段階で「血圧、脈拍の測定不能 酸素吸入、心臓マッサージ実施」などとある。医師が老健施設に着いたのは8時45分。5分後、死亡を確認した。 老健施設によると、遅くとも8時前後には危険な状態だった。准看護師は早い段階で、マニュアルに従い、ベテランの副看護師長に応援を求めた。だが救急車を呼ぶことはなかった。丸山事務長は「医師の到着を待っていた」と説明する。高齢者の場合、急に病状が悪化することがある。老健施設では、三郎さんの死を教訓に、医師が老健施設に到着する前でも、看護職員の判断だけで救急車を呼ぶようにしたという。 ■専門家「看護師判断で病院へ」 厚労省は、介護療養病床を廃止し、老健施設や自宅などでの在宅療養を推進する施策を取る。ただ医療は手薄になりがちだ。それだけに救急の判断が重要になる。厚労省老人保健課によると、老健施設の看護職員に関する規定は、「入所者3人に対し、看護職員と介護職員を合わせた数が1人以上。うち7分の2程度が看護職員」としている。 高齢者医療に詳しい国立長寿医療センター病院の三浦久幸医師は「老健施設では十分な医療処置ができない。夜間は、医者に連絡を取り、看護師の判断で病院に送って治療することが重要だ」と話している。 (岩崎賢一) マイタウン山梨
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