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2008年4月9日

◎白山市長「違憲」判決 おちおち祝辞も述べられぬ

 白山市の角光雄市長が白山比盗_社二千百年祭の奉賛会発会式に出席し、祝辞を述べた のは違憲と結論づけた名高裁金沢支部判決は、政教分離の原理原則を厳格に適用したとは言え、市長の行為が「特定宗教の援助、助長、促進になる」と指摘されれば違和感を覚える住民も少なくないはずだ。政教分離をここまで狭く解釈されれば、首長は同様の会合でおちおち祝辞も述べられないことになる。

 司法の判断と一般の人が抱く常識や感覚はときにずれが生じることがあるが、習俗や儀 礼的色彩の濃い神道の政教分離判断もその一つかもしれない。白山の恵みに感謝するという白山信仰の本質や、白山を合併自治体の市名に採用したことなどを考えれば、神社行事への市長の祝辞を真正面から「違憲」と否定する司法判断にはやはり戸惑いがぬぐえない。

 市長出席の発会式は神社でなく一般ホールで行われ、宗教儀式的な式次第でもなかった 。市長側は「儀礼的交際」と主張したが、「宗教的活動」という認識がどこまであったのか判断は難しいだろう。

 国や自治体の宗教的活動を禁じた憲法二〇条三項は「いかなる宗教的活動もしてはなら ない」と規定しているが、一九七七年の津地鎮祭訴訟で最高裁は禁止対象を限定的に判断し、これが政教分離の基準として定着している。

 つまり、宗教的活動とは「目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助 長、促進または圧迫、干渉などになるような行為」であり、その行為は「一般人に与える効果、影響などを考慮し、社会通念に従って客観的に判断しなければならない」とするものである。

 「目的効果基準」と呼ばれるこの物差しに従って一審は合憲、二審は違憲と正反対の結 果となったが、裁判官の判断で「社会通念」のとらえ方が異なることがこの種の訴訟をややこしくしている。

 白山市の多くの住民にとって霊峰白山はシンボルであり、世界遺産運動も展開されてい る。違憲判決が出たからといって、行政が委縮して白山に関するさまざまな取り組みにまでブレーキをかけることだけは避けたい。

◎公的資金投入提言 日本の経験を生かしては

 サブプライムローン問題で金融機関がこうむった損失額は約百兆円に上る。国際通貨基 金(IMF)が世界金融安定報告のなかで示した試算である。わずか半年で五倍に増えた計算であり、サブプライムローン問題の根の深さがうかがえる。

 IMFは損失額の試算と併せて、公的資金投入の準備を提言した。これは長きにわたっ て金融機関の不良債権処理に苦しんできた日本人には納得のいく主張だろう。サブプライムローン問題のくびきからできるだけ早く自由になるために、今こそ日本の苦い経験を生かしてほしい。

 米国内では、公的資金による金融機関の救済案に反対意見が強く、実現へのハードルは 高いといわれる。これも日本が経験した道であり、公的資金投入の決断が遅れたことが、不況を長引かせてしまったことは記憶に新しい。だからこそ今月十一日からワシントンで開催される先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で、日本側はバブル崩壊後の不良債権処理問題との類似性を指摘し、公的資金投入を強く促すべきだ。それが米国自身、ひいては世界の利益にもつながると思うからである。

 米連邦準備制度理事会(FRB)はサブプライムローン対策として、高格付け債券の担 保力を国債並みに引き上げる政策を打ち出し、倒産のうわさが流れた米証券大手のベアー・スターンズの救済に動いた。これらは実質的な公的資金の活用と見ることもでき、世界的な株の暴落に歯止めをかけるきっかけをつくった。しかし、救済策として中途半端な印象はぬぐえず、金融市場が落ち着いたとはいえない。米国が公的資金投入を正式に表明すれば、市場は確実に底入れに向かい、信用不安は解消されるだろう。

 最近の円高ドル安や原油高の根っこにあるのも、やはりサブプライムローン問題の影響 が大きく、公的資金の投入が決まれば行き過ぎたドル安が是正される可能性が高い。世界経済を再び成長路線に乗せ、不安定な為替を落ち着かせるためにも抜本的なサブプライムローン対策が必要である。


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