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2004/06/29のBlog
[ 17:55 ]
[ 電脳東京・夏 ]
オレは黙っていた。
卑怯だと思わなかったが、オレ自身
どうしたいのかがわからなかった。
「守れない約束はしない。 オレはそうやって生きてきた」
礼美もまた無言のままだった。
オレはほんの少しの間、ソファで眠っていたようだ。
グラスを洗う音。
湿度はあるが、ちょうどいい夜風が部屋を通り抜けていた。
時折聞こえてくる山手線やクラクションの
音は、むしろ無いと不自然なくらい慣れっこだ。
キッチンに気配が無いと思ったら、
礼美は窓を閉め、空調のスイッチを入れていた。
先週やっと修理屋が来て、壊れていたエアコンが
復活し、もう寝苦しくはない。
その分、スポーツのようなセックスではなくなっていた。
エアコンの取り付けも修理も今が稼ぎ時だろう。
礼美が修理に来た男二人に、冷蔵庫にあった
アップルタイザーの瓶を渡すと、すぐには飲まずに
礼を言ってそそくさと次の現場に行ったらしい。
そんなことも礼美には寂しいようだ。
おいしいのになんで飲んでくれなかったのかしら、と
ご機嫌ななめだった。
下手すりゃ泣き出さんばかりで、周囲からの「承認」を
強く求めていることがわかる。
「いずれにしろ、飛ぶときはいつも一人なんだ」
責任は持てない。
オレはつぶやくように言ってみた。
空調の静かな音だけが響いている。
「ネイルショップの方は楽しいか」
「楽しい。 和子さんがすごくやさしい。
ずいぶん上手くなったよ」
礼美もソファに座った。
「和子さんに、涼ちゃん優しい?ってよく聞かれるよ」
「ふ、そうか」
だから柳葉はもうやめろ。
誰が何をやっても、言っても痛くも痒くもない。
オレには関係無い、そう思っていた。
オレはオレが守ればいい。 その自信もある。
だが、いまオレは目の前の女には、素敵な未来が
あって欲しいと思っている。
「礼美。 上手く説明できないが、礼美はオレにとって
大切な存在だ。 でも、それは象徴のようなもんなんだ」
「なにそれ、象徴って」
「ここに居ようが居まいが、飛ぶ時は一人だって
ことを言いたかったんだ。 それ以外の意味は無い。
何も心配するな」
「涼はモテるもんね。
でもね、蝶はね、きれいな花が無いと飛び立てないの」
そう言ってオレを見つめる礼美を抱き寄せ、
いい香りのする礼美の髪にキスをした。
2004/06/28のBlog
[ 01:00 ]
[ 電脳東京・夏 ]
それから、いつものように礼美は夕食の仕度を始めた。
オレはワインを開けて、どのようにまた話を切り出そうかと
他の雑多なことと一緒に考えていた。
結局、夕食を済ませ、ソファに座る頃に礼美はポツリポツリと
話を始めた。
礼美の父親は、いわゆる社会的地位も名誉もある男だった。
その父親は、母親が再婚した相手でもなかった。
血のつながった実の父親だ。
普通の家庭、いや、端から見れば相当に
恵まれている家庭だったはずだ。
「話したくなければ、それ以上何も話さなくてもいい。
ただ、昨日電話でなぜ突然そんなことを言ったのか、
それは教えてくれないか」
正直、何でこんな回りくどい物言いをしているのか
オレにもわからなかった。 過ぎたことなんてどうでもいい。
だが、礼美はいつもと変わりなく明るく答えた。
「だって、涼があんまり相手にしてくれないからさ」
あのなあ。
「オレはなあ... まさか 冗談じゃないよな」
礼美はため息をついた。
怒った表情ではない。 だが、オレは一瞬、礼美が
少し離れていくような感情に襲われた。
さすがに、それはないか。
「話した方が楽になるんなら、一晩中でも話せばいい。
安上がりな心理カウンセラーだぜ」
さっきから、礼美はオレを見るでもなく、どこか他の場所に
視点を合わせて、誰に話すでもないようなで独白をしていた。
「これ以上細かいことは涼には言わない。
涼はいつもみたいにしていてくれればいいの」
「そうか」
言わない、ではなく、恐らくは言えない、だろう。
虐待は礼美が中学に入った頃から高校卒業まで
続いたらしい。 実の父親に。
しかも、実の母親も見て見ぬ振りだった。
父親の社会的地位や自らの生活を守るためか。
おまえら人間じゃねえ。
そして、高校卒業と同時に礼美は家を出た。
父親と闘うためにだ。
とは言ってもまだ18歳だ、金も無い。 友人宅などを
転々としながら、闘う方法を考えていたのかもしれない。
やがて、手弁当で弁護を引き受けてくれる弁護士が現れた。
内容が内容だけに立証が非常に難しい事案だが、
礼美はある決定的な証拠を持っていた。
その証拠探しとウラ取りは弁護士の機転が相当に効いている。
それで公判維持が可能と踏んだのだろう。
結局、父親を相手取った裁判で礼美は勝訴した。
それ自体かなり特殊なケースだ。
その決定的な証拠と、父親の職業は明らかにできない。
非常に稀有な判例となっているからだ。
「やったな」
「ん?」
「...つまり、やっつけてやったっていうか」
「うーん、父親や母親はもうどうでもよかったの。
生まれ変わりたかったの。 違う自分に」
「そうか。 深い傷も時間が経てば少しずつは
消えていく。 ほらな」
多少おどけて、オレはシャツをめくって腹の古傷を見せた。
「うん、わかってるよ。 ありがとね、涼」
こんな忌わしい過去を持つ21歳も珍しい。
リセットしたくなる気持ちはわかる。
「そう、待ってるの。 そんなこと私の人生には
無かったんだって、錯覚だったって思える日を」
「そうか」
そうかそうかだけじゃ、まるで柳葉敏郎の一本調子の演技じゃねえか。
映画やドラマは気楽でいい。
これは困ったっていうシーンになると、ちゃんと
次のシーンや違うカット割りに移り変わる。
「うまく生まれ変われたじゃないか」
「...まだわからない。 でも過去はどんどん遠くなってる。
涼と一緒にいるし。 こういうのが幸せなのかなあって生まれて
初めて思えてるの」
「違う。 オレは別に礼美を幸せになんかしていないぜ。
これからも、どうだかな。 何も期待はしない方がいい。 でも...」
余計なことはもう言うな。
気持ちの整理をしないまま、オレは何を言おうとしてるんだ。
「一緒にはいられる。
礼美が一人で飛んでいけるようになるまでは」
「え、二人じゃ飛べないの?」
う。
次のシーンに移ってくれ。
2004/06/26のBlog
[ 13:37 ]
[ 涼のoff ]
まだまだ若いんだからよ。
最近まで知らなかった。
昔の女が住んでいたマンションでたまに
すれ違うパンチ一発で次の日まで起きてこないような奴が
斬る、いや、切込隊長だったとは。
現実世界とネットの世界の行き来をするようになって
実には面白いシンクロがオレの周りでは起き始めている。
ある人気サイトのブロガーが切込隊長の部屋のすぐ近くの
放送局に勤めてる知人だった。
しかし、当初はそうとはお互い知らず、
例によってそいつのサイトに好き勝手なコメント付けてたら、
直メールで「これお前だろ!?」と、そこで初めて他人だと
思っていた関係が、なんだダチかよってことが判明。
そうこうしているうちに、近所に住んでる
切込隊長の話になって、どこのどういう奴だって
聞いたら、あらビックリ。 知ってるよ、っていうかたまに
見かけるお坊ちゃんだ、っていうことが判明。
切込隊長というのはキムタケも切り切りして、
ネットの上では元気がいいようだ。
その木村剛氏からオレがTBされて、
彼のことも見ていたら、キムタケも切込隊長は辛口だがイイこと言う
みたいなこと書いていた。
「涼のoff」や寄せられるコメントにも再三書いてるが、
なんとなくこうやってネットって昨日まで全く知らない人間でも、
ダチであったり隣人であったり、時として同志となる可能性を持つような
様々な見えない繋がりがあるのだということがわかった。
リアルの世界がネットに持ち込まれ、一気に増大して深まる。
ネットでの動きがリアルの世界に対して、まざまざと影響や推進力を与える。
東京は狭いのか、やっぱり。
切込隊長、これからも切りまくってくれ。
木村氏も切られてばかりではないだろう。
いずれにせよ、澱んだ空気の部屋には換気扇も必要だ。
自由で、公開された、建設的な、換気装置を
個人が同一規格で持てる時代が来たのだから。
(一部加筆)
2004/06/24のBlog
[ 08:57 ]
[ 涼のoff ]
基本的には応じることにしている。
そのイイ女からの「お願い」メールは昨日届いた。
その内容があまりにも「電脳東京・夏」の展開と
シンクロしていて、怖いくらいだ。
しかし、彼女からの頼みごととあっては断れない。
その頼みごとを順を追って説明する。
まず、そのイイ女とは、池内ひろ美という家族問題解決に
全精力を傾け、多忙を極める東京家族ラボの主宰者だ。
以前から「朝まで生テレビ」にはことあるごとに出演して
いるが、先週は一週間連続でJ-WAVE にも出ていた
らしい(J-WAVEも社会派を目指してんのか!?)。
当然、著書・あらゆるジャンルのメディア取材、
講演依頼はひっきり無しの状態だ。
...と、書くとイカツイおばちゃんみたいに聞こえるが、
とっても華奢で、可愛い女性なのだ。 酔うとなお可愛い。
ただ、1つ残念なのは愛する夫がいることだ。
一卵性双生児のような可愛い高校生の娘がいる点は
大いに評価している。
出会うのが少し遅かったようだ。
ま、ともかく、
まずは、ここを見てもらいたい。
肩書きが「離婚コンサルタント」という、なんじゃそりゃ的な
ものになっているが、家族問題の大きなポーションを
夫婦問題が占めているので、いつの間にか彼女は
離婚問題のオーソリティに仕立て上げられたというのが
オレの理解だ。 彼女もそれならそれでいいわ、くらいに
思っているだろう。
彼女は見掛けとは異なり、芯が通った女だ。
なんだかんだ言って、まだまだ男尊女卑の日本社会にあって、
そんなもん男を上手く操れない女がバカなのよ、
と言わんばかりに、えせフェミニストたちを一刀両断にする。
世間とは勝手なもので、そういうことをする女が左程きれい
でもないと、あの人にはそういう生き方しか無かったのかもねぇ
みたいな言い方もされそうだが、
このようなチャーミングでイイ女が、しかも至って自然体で
田原総一郎氏などをバシバシやってる図は痛快だ(ちなみに
彼は真性のフェミニストらしいが)。
つまり、彼女は決して今の男社会の現状肯定派ではなく、
あくまで改革のための方法論として実現可能な最善の
選択し続けているようにオレには思える。
最終的に家族が、そして、社会が幸せになればいいと。
様々な専門理論の蓄積を持ちながらも自ら修羅場を
潜り抜けた実践を伴う現場主義者である、という意味で、
木村剛氏と池内ひろ美氏で「財政再建と家庭再建」という本など
を出すのも面白いのでは、と最近思っていたところだった。
財政・年金改革も手段であって目的ではない。
木村剛氏も珠丸もたじろぐ5000枚近い開示情報の処理も貴い作業だが、
目的は、将来に夢を持てる国家作りのはずだ。
その手段として機能不全を起こしている官僚機構の糾弾も
時には大いに意味があることなのだと思っている。
だから、社会の最小単位である家族の在り方も、壮大な
国家作りも根っこは同じような気がしていた。
なんというシンクロだ(これはオレだけの驚きなわけだが)。
さあ、
実際に家族問題で悩んでいる人、該当する行政機関関係者、
カウンセラー、法曹関係者、K1ファンもF1ファンもおじいちゃんも
おばあちゃんも、是非彼女の爽快で前向きな話を聞きに
会場へ迷わずGOだ!
あ、オレ、この件では一銭ももらってないぜ。
彼女に貸し作ってるだけだから。
追伸:木村剛氏へ
「お気楽TB」推奨第一号。 まずは感謝。
今週号の「AERA」18~19Pの発言。
「金がなければ知恵を出す。知恵がなければ汗をかく」
その発言を実践してるところがとりあえず木村剛氏の
人を惹きつけるところなのだろう。
イイ男からの誘いに弱い男たちも多いのだ。
日銀の中でも府中の計算センターに飛ばされなかった
位の頭の良さはあるとして(煽り)、最後の最後は根性だ気合だ、と
腹をくくっている雑草のような強さが木村剛氏にはある(気がする)。
これは「エリート」から見ると相当不気味な存在であるはずだ。
今後もその不気味さを武器に、大衆のリアリティを国に突き付けて
いくのをオレは密かに楽しみにしている。
...不気味と言えば、同誌69Pは一瞬ホラー映画の広告かと思った。