裁判員制度が来年5月21日から始まることになり、市民の刑事裁判参加が目の前に迫ってきた。模擬裁判が繰り返され、企業が「裁判員休暇」を設けるなど準備が進む一方で、国民に強い抵抗感も残る。市民参加に積極的だったはずの弁護士サイドから異論が出るなど、実施までには課題も多い。【北村和巳、武本光政】
最高裁が今年実施した調査で、裁判員に「義務でも参加したくない」は37.6%に上った。「参加する」は6割で、最高裁や法務省の懸命のPRにもかかわらず頭打ち。最高裁幹部は「数字的にはこの程度が限界。制度運営には十分な水準だ」と言う。今後は国民の不安を取り除くPRに力を入れるという。
東京地裁で3月、主婦が裁判員役となった模擬裁判。検察、弁護側はビジュアルを駆使し、言葉もかみ砕いた。だが参加者は「専門用語が分からない」「説明が長すぎる」と厳しい。評議に疲れ黙ってしまう人もいた。
今年の春闘。裁判員向けの有給の休暇制度を設けるよう求める労組が目立った。トヨタ自動車など大企業は既に導入を決めている。
だが中小企業の対応は遅れている。東京商工会議所が昨年行ったアンケートでは73%が「特に何もしていない」。東商と日本商工会議所は06年末、従業員50人以下の企業の勤務者は原則的に辞退を認めるよう法務省に要請した。日商は「裁判所は実態を見て対応してほしい」と配慮を求める。
育児を抱える人の負担を踏まえ、厚生労働省は3月、一時保育の時間延長を要請する文書を各自治体に送った。裁判員裁判を行う裁判所のある60市区のうち、全保育所が午後6時までの保育を受け付けるのは22市区。延長を求められた千葉市は「保育士の配置など具体的な検討はこれから」と話す。
新潟県弁護士会は2月末、制度実施延期を求める決議をした。国民の支持が不十分で拙速審理の危険があることなどを理由とした。提案者代表の高島章弁護士は「死刑判決もある重大事件の審理を国民に任せるのは、時期尚早だ」と訴える。
東京地裁は4月から数日間で審理する「連日開廷」に取り組む。弁護士会側も賛意は示すが、国選弁護の場合は複数を選任するよう要望した。負担増大に不安を募らす弁護士が多い。8日会見した日本弁護士連合会の宮崎誠会長は「弁護士にも戸惑いはあるが、必要性について理解を求め、研修を重ねて弁護態勢確立に全力を挙げたい」と述べた。
検察側は取り調べの一部録音・録画を、制度対象事件すべてに拡大する。ある最高裁幹部は「裁判員制度は法曹三者すべてに、変革というやいばを突きつけている」と語る。
毎日新聞 2008年4月8日 13時40分(最終更新 4月8日 14時39分)