「聖火と市民の安全を守りたい」。26日に長野市を走る北京五輪の聖火リレーをめぐり、警備当局の緊張が高まってきた。6日にリレーが始まったロンドンでは、中国の対チベット政策を批判して聖火を奪おうとしたり消そうとしたりする人が続出した。「日本ではそこまでの抗議は想定しにくいが、あらゆる状況に対応できる準備は必要だ」。県警は、他県警の応援を仰ぐことも視野に入れて警備計画の詰めを急いでいる。(池田拓哉、柳川迅、長谷川美怜)
「ロンドンでの抗議行動は、ある程度予測されていた。こちらは慌てずに粛々と準備を進める」。日本オリンピック委員会(JOC)や長野市で組織する「聖火リレー長野市実行委員会」の担当者は、海外での混乱を受けてこう語った。職員らは7日もイベント会社との式典の打ち合わせや、リレー当日の交通整理などを担当するボランティアの研修準備といった仕事を予定通り進めた。
当日は複数の民間警備会社に警備を委託するほか、市民ボランティアら計1300人を沿道に配置する予定だ。北京の五輪組織委からは先月、「デモや集会の抑止に努めるように」との要請を受けたが、ある職員は「表現の自由まで抑えることはできない。暴力行為などへの警備は警察の手に委ねる」と語る。
暴力などの違法行為に備える県警は「情勢に応じて的確な態勢をとる」として実行委などとの詰めの協議を進めている。具体的な抗議行動の予定を把握するための情報収集も強化。県警警備2課は「住民や観光客の安全とともに聖火の安全も考えねばならない」と強調する。
県内でも、リレー当日に中国への抗議活動に向けた動きはある。県内の市民十数人でつくる「チベット問題を考える長野の会」(野池元基代表)は、コース沿道の数カ所で「チベットに人権を」などと書かれた横断幕を掲げたり、集会を開いたりする予定だ。野池代表は「混乱は望んでいない。あくまで非暴力で粛々と訴えたい」と語る。
世界各地の抗議行動で高まる緊張感に、聖火リレーの経済効果に期待する長野市の経済界からは「風評被害」を心配する声も出始めた。長野市商工会の窪田芳夫事務局長は「全国の人が混乱を恐れ、長野市から足が遠ざかるのが不安。長野五輪以来、せっかく国内外に長野市を売り込めるチャンスなのに」とため息まじりだ。
長野市の聖火リレー 北京五輪の聖火リレーコースとしては国内唯一。長野市街地を駆ける18・5キロのコースで、国宝・善光寺を起点に、98年長野五輪の舞台となった三つの競技施設の前を通過する。五輪メダリストや一般市民ら総勢80人が200〜300メートルを走り、野球の星野仙一・日本代表監督やタレントの萩本欽一さんも聖火をつなぐ。