北京五輪の聖火リレーが行われる長野市の中央通り。デモ活動も予定されている=7日
チベット民族への「人権弾圧」を焦点に、ロンドンに続き、パリでも激しい抗議活動があった北京五輪の聖火リレー。26日に聖火を迎える長野市では7日現在、行事に大きな予定変更はないものの、中国政府側が警備強化を求める動きもあり、主催の実行委員会などは情勢を注意深く見守っている。人権問題のアピール活動を予定する県内の市民団体は「妨害行為では主張が伝わらない」と平和的な訴えを探っている。
「粛々と進むと思っていたロンドンであそこまでとは」。長野市教委が事務局の聖火リレー実行委員会の担当者は7日、ニュースで知った「予想外」の事態に戸惑った。
公募ランナーの中には中学生や女性もいるが、今のところ不安などを訴える問い合わせはなく、市職員、ボランティア、警備員らスタッフ約1300人が県警の応援も得て臨む当日の日程やルートの変更も予定していない。
ただ、ここに来て抗議活動の広がりは無視できなくなってきた。中国の北京五輪組織委担当者が同市を訪れ、リレー中の抗議活動抑止を要請したことが明らかになった3月下旬以降、「(リレーを)やめろ」といった抗議や中国当局への批判が10件ほど寄せられているという。
近く中国大使館関係者らが訪れ、あらためて警備の強化を求める予定。本番3日前の23日、走者がどの区間を走るかを発表するが、担当者は「発表を遅らせた方がいいかどうか。今後のリレー開催地の様子を見て考える」と慎重だ。
県警は交通、警備など各部横断で対策を話し合い始めている。リレー前後に、デモやチラシ配布を計画している市民団体などがあることは把握しているが、「(欧州のように)個人で飛び込んでくるようなケースまでは把握できない」と関係者。海外ではリレーコースと沿道の観客を隔てるフェンス設置などの対策が取られているが、具体的な警備の陣容は情勢を見て判断することになりそうだ。
一方、当日にアピール活動を予定している市民団体は、海外での騒動には距離を置く。「妨害や暴力では純粋な主張は伝わらない」。県内有志でつくる「チベット問題を考える長野の会」会長の農業野池元基さん(49)は言う。
リレー前夜、インド生まれのチベット難民二世、ツェリン・ドルジェさん(34)=名古屋市=を招き、市民との交流会を開く。当日は沿道で、北京五輪の公式スローガン「一つの世界 一つの夢」に対し「チベットに自由を チベットに人権を」などと書いた横断幕を掲げ、人権問題の改善を訴える予定だ。
「チベット問題に対する強権的な中国の対応が、標語にいかに反しているかを訴えたい」との趣旨だが、行動はあくまで「合法的、平和的にアピールする。拡声器も使わない」としている。
公募ランナーも政治的アピールと聖火リレーを切り離すことを求め、チベット問題への中国政府の対応を疑問視する長野市豊野町の山岸重治さん(76)は「五輪という注目が集まる場で、チベットの立場をアピールしたい気持ちは分かるが、聖火リレーを妨害するのは逆効果」と指摘。長野市安茂里の会社員竹内忠雄さん(61)も「平和の象徴である聖火はそっと見守ってほしい」と話している。