「見ていてごらん。まず、うまくいかないから」
二〇〇五年、東京都が自治体初の銀行として鳴り物入りで新銀行東京を開業した際、地元のある金融機関幹部が漏らした言葉です。
その予言通り、新銀行が窮地に陥っています。〇八年三月期の累積赤字見通しは約一千億円。都は経営を支えるため、四百億円の追加出資(税金の再注入)を決めましたが、再建の先行きは不透明なままです。
新銀行の設立当時は、不良債権の処理を急ぐ民間金融機関による中小企業への「貸し渋り」が社会問題化。そんな中、土地などの担保に頼らず、企業の技術力や将来性を評価して無担保・無保証で貸し出す融資スタイルを打ち出し、脚光を浴びました。
しかし、企業の“実力”を見極めるのは熟練の金融マンでも難しいとされ、さらに万が一の焦げ付きに備えた高度なリスク管理の技術も必要になります。こうしたノウハウの不足が、融資審査の甘さにつながり、損失を膨らませたことは想像に難くありません。
新銀行が金融界に一石を投じた点は評価できますが、巨額の税金を投じてまで自治体が担うべき事業なのか、疑問符が付きます。
日本経団連は道州制導入のため三月にまとめた第二次提言で、民主導の経済社会実現に向け、官の役割をゼロベースで見直すよう求めました。分権型社会で行政が真に果たす機能は何か。中央省庁だけでなく、自治体もあらためて考えるべきでしょう。
(政治部・桑原功)