文部科学省が、全国の国公私立の小学五年生と中学二年生の全員約二百四十万人を対象に、体力テストを実施すると発表した。学年全員の体力テストは初めてのことだ。
小学六年と中学三年について昨年行った全国学力テストの体力版だが、文科省は子どもの体力を知るため既に毎年抽出調査を行っている。あらためて全国一斉に実施する教育上の必要があるのか、疑問を感じる。
テストでは握力、五十メートル走、立ち幅跳びなど八種類の実技のほか、朝食を食べているかなど生活習慣も調べる。今月から七月にかけて実施し、結果は十二月ごろ公表される予定だ。
文科省は子どもの体力低下を踏まえ、全国の状況をつかんで施策に反映させることが目的の一つという。だが、抽出調査はもともとその目的で行われているのではないか。今回と同じ実技項目で小学校は各学年二千二百人、中学校は同二千八百人を抽出し、調べている。
一人一人の体力向上へきめ細やかな改善策を検討することも目的だそうだ。しかし、抽出調査に合わせて全国の約七割の小中学校が自主的に調べている実態がある。必要なら自主実施校を増やす策を練ればよかろう。
体力テストの必然性が疑わしい半面、デメリットはいくつも指摘できる。まず心配なのが地域や学校間の競争だ。文科省は個々の校名などはできるだけ伏せる方針だそうだが、全国や都道府県の平均が出るし校名も出ないとは限らない。データを基に現場が成績アップに躍起になる事態が起きないか。
運動が苦手な子や障害がある子たちが肩身の狭い思いをするのではという心配もある。加えて、大規模な実施は先生らの負担も増やす。文科省の急な発表に岡山県内の学校からは既に困惑の声が上がっている。
功罪を勘案すれば、今回の体力テストは取りやめた方がよいのではないか。運動の楽しさを教えたり指導者の養成に予算を使う方が賢明だろう。
文科省は、全国学力テストの際に生活習慣を一緒に調べ、成績と照らし合わせて「朝食を欠かさず、校則を守る子は正答率が高い」など、理想の子ども像を描き出してみせた。今回も生活習慣の調査があり、体力面からこの子ども像を補強する意図がうかがえなくもない。
国が望ましい姿を示すことは子どもを一定の鋳型にはめ込む動きを招きかねない。自由を基盤に、子どもたち個々の多様性を尊重しつつ成長を促すのが教育の役目であろう。
二〇〇七年の日本の政府開発援助(ODA)実績(速報値)が前年比三割減の七十六億九千百万ドル(九千六十億円)だったと、経済協力開発機構(OECD)が発表した。国別順位は前年の三位から後退し、三十五年ぶりに五位に転落した。
日本政府は、世界に向けてはODA大幅増額を具体額を示して公約してきた。だが、OECDは今回の発表に合わせ「達成は困難」と指摘した。日本は二〇〇〇年まで十年連続で世界一のODA大国だった。当時とは隔世の感があり、日本の外交力低下が懸念される。
主因はいうまでもなく財政事情の厳しさだ。ここ数年、減額を懸念する声が高まっていたにもかかわらず、〇八年度予算でもODA経費は減額された。不正入札事件などの不祥事が相次ぎ、ODA批判が出てきたことも影響しているだろう。
とはいえ、〇七年版のODA白書が「不可欠の国際協力の手段」と表現しているように外交と国際通商で成り立つ日本にとってODAは重要で、五位転落を見過ごしにはできない。貧困の撲滅がテロ抑止につながるとの観点から、欧米各国も近年ODAに力を入れている。
ODAの効率的活用も大切だが、根本的には増額すべきであろう。東京で開かれた発展途上国の開発問題を協議する主要国(G8)開発相会合で、高村正彦外相が増額転換を目指す考えを示した。同様の認識が政府内で広がっているようだ。国内では五月にアフリカ開発会議が、七月には主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)が開かれ開発援助が主要議題となる。政府内の意思統一を図り、予算確保の方策を練る必要があろう。
ODAの透明性向上や、重要性を国民に理解してもらうための努力も欠かせない。
(2008年4月7日掲載)