二十世紀で一番大きな事件は、有色人種である日本が百年かかって、人種平等を実現し、そして自分もナンバー2にまで上がったことである。
白人はそう思っている。しかし悔しいから口に出さないし、日本人がこの大事件に気がつかないように「日本は軍国主義でけしからん国だ」とさかんに宣伝している(彼らはインドやインドネシアやベトナムなどの植民地を失って、貧乏国になったからその怨みがある。確かに「けしからん国」である。)
しかし中国人やインド人やアジア人など、世界の有色人種は知っている。自分たちは19世紀までは植民地支配の下で奴隷同然だった、永久に白人には勝てないと思っていた。ところが日本人が白人との戦いに勝って、世界の強国の一角に入ってくれた。それを見て、自分たちも立ち上がろうと考えたのであると、インドのネール首相その他は伝記にその感動を書いている。
これこそが20世紀、百年間の一番の大事件だと私は考えている。
アメリカへ留学した人などは、こういう事実が見えなくなって帰ってくる。先方に都合のいい説明を鵜呑みにして、アメリカはいま人種平等の実現に努力していると誉めるが、その元祖は日本だということを忘れている。ましてや靖国神社にまつられている人たちの血で人種平等が世界の潮流になったことを忘れ、逆に日本の軍国主義を批判しているようでは困ったものである。
順を追って述べればこうなる。
日本は1854年に日米和親条約で開国して国際社会の仲間に入った。それからが恐ろしい活躍である。新入幕なのに先輩がやったことをすぐに真似し、すぐに追い越していった。そのうえ、倒されてもまたカムバックした。
しかもその間、人種平等を言い続けた。白人に対して、決して諦めなかった。
これは画期的なことである。その前の二百年間は白人圧勝の時代で、有色人種はグウの音も出ないほど支配されていた。白人も有色人種が噛みついてくるなどは絶対に未来永劫ないと思っていた。
それが日本が開国し、世界史に登場してからわずか百五十年で今日の人種平等まできた。
あとから述べるようにかつて1919年、国際連盟を設立するとき日本は「人種平等宣言」を提案し、アメリカのウィルソン大統領に潰されたが、今やそのあとを継いだ国際連合は人種平等を認め、アメリカも認めたのだから画期的である。
もちろん人種平等は現実面においては、まだ完全な実現はしていないが、しかしさすがに白人絶対はもう言えなくなった。
そのようにし20世紀は、日本が白人絶対の時代を終わらせた世紀である。
そして十分自覚しておいてほしいのは、これはすべて日本単独の力だということである。
白人は悔しいからそういう事実を認めずに、日本は侵略主義だ、軍国主義だ、真似ばかりの国だ。頭の中は空っぽで、手先だけ器用だ。とありとあらゆる悪口を言ってきた。“リトル・イエロー・モンキー”というのも普通に使われた表現である。しかしそれを本気にしてはいけない。むしろ「悔しさがにじみ出ているではないか」と聞くのが本当の国際感覚というものである。
日本人もそういうことを言えばいいと思うが、言わないのには三つほどの理由が考えられる。
一つは致命的な相手の悪口は言わないという日本的思いやりで、あまりにも明白な相手の悪口は言わないで、自ら気がつくのを待つというのが日本式である。
また面白いことに二番目は、もうここまで成功すると日本人自身が何も気にしていない。実際にお金をたっぷり持っているから、「この店から出ていけ」と言われることもない。金の力は人種よりも強いことを実感している。また、ヨーロッパ社会でも人種や階級よりお金と教養のほうが通用するということを、日本人は十分実感している。
三番目は、もともと日本人は人種意識や差別意識が薄い。人を奴隷にする制度を国家としてもったことがないからである。その点、たいていの国にはなんらかの理由をつけて人を区別して見る習慣が残っている。一番下の人は奴隷にしてもよいという理由探しの歴史があるからである。「国家として奴隷制度をもったことがないのは、日本とユダヤだけだ」とは山本七平氏の説である。
このように二十世紀回顧と言われたら、人種平等が最大の事件である。原爆の発明よりこちらの方が大きい。科学技術やパソコンや原爆はどうせいつかは誰かがつくる。しかし白人絶対時代は、有色人種の誰かが立ち上がって、実力で打ち破らないかぎり終わらない。白人の方から譲歩することはない。
それを日本は単独でやって成功した。日本があのとき立ち上がらなければ、白人絶対時代があと何百年続いたかわからない。
その意味ではこれは20世紀といわず、ここ300年の大事件だと考えている。