2008年04月03日

媒体・再会(下)

 新宿駅南口で立ちつくしていると、縦がやってきた。
「あんまり待たすんじゃねえ」とは、私ではなく、縦の台詞だ。
 こぢんまりとした台湾料理屋に、懐かしい顔どもがあった。
 不義理な私なので、ほんとうに久しぶりだが、連中ときたら、いつも会っているらしい。

 貝塚──東大の国文科に進み、学習塾の経営で成功した。思うところあったらしく、今は証券会社の幹部。

 三瓶──ふっくらした丸顔は相変わらずだが、大人の女としてシャープさを増していた。やさしく楽しい。

 山崎──出産育児の本で、ベストセラーを出している。大きな仕事ばかりしているベテランライター。前田美波里とくりそつだと、私は思っている。なぜシワ一つ無い美女なんだ?

 枳──実は、やつの妹の娘、つまり姪が、うちの次女とずっと同級で親しい友達だった。革ジャンを着込み、チョイワルどころかかなり悪そうだが、近々次の子供が産まれるらしい。

 釜屋──最高裁の判事。西新宿に家は建てるわ、娘が桜陰に受かるわで、忙しい。

 縦──何の商売をしてるんだか、私にも謎である。

 大いに盛り上がり、店が看板になったので、ゴールデン街へと移る。
 株屋の貝塚がしきりに車に乗ろうと言う。
 このタクシー好きの私でさえ、絶対歩く距離だというのに。
「株屋は歩かない。電車には乗らない」が鉄則らしい。
「だったら、君だけ乗れよ」と言うと、笑っていた。

 私より10センチくらい長身の山崎薫に腕を取られ、新宿の街中を歩く。
 あれはどこをどう通ったものか、ずいぶん静かだった。
 馴染みのバーは、うまいこと空いていて、みんなゆったりと席についた。

 記憶が途切れ、気づくと、中央線の奥の駅で、電車の中で朝日に温められていた。
 身の回りを改めるが、失ったものは何もないようだ。
 大きなほうの財布に、札が残っているので、まさか誰かに迷惑をかけたかと思ったが、5枚残っている一万札と見えた紙幣は、改めるとすべて千円札だった。
 がっかりするような、ほっとするような。

 後日談)
 山崎から、優しいメールが来た。
 あんなに大酒を飲んだのは久しぶりだったとのこと。
 聞けば、ゴールデン街の後、朝の光で明るい新宿で、ホルモン屋に入り、私は焼肉奉行をしていたらしい。
 タイムカード組は、涙目で帰って行き、最後は山崎と私が二人、これまた別の店で、ギョウザとウーロンハイで〆たそうだ。
 が、彼女の記憶も、途中がごっそり抜けているとのことである。
posted by TAKAGISM at 23:59| Comment(0) | 仕事
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