宙に浮く5000万件の年金記録をめぐり、福田康夫首相は7日の参院予算委員会で「誤解を与えた」として初めて陳謝した。昨年の参院選で与党の並べ立てた公約が、国民に「3月には解決」との期待を抱かせてしまった点を認めざるを得なかった格好だ。年金の信頼回復に躍起の政府だが、特効薬はなく、勢いに乗って攻め立てる野党の前になすすべもない。
「最後のお一人までチェックし、正しく支払う」(安倍晋三前首相)「最後の一円まで命がけでやる」(舛添要一厚生労働相)
7日の参院予算委で、民主党の内藤正光氏は与党幹部が語った記録問題に関する一連の発言を振り返り、「公約偽装だ。真摯(しんし)に謝罪を」と福田首相に迫った。これに対し、首相は「誤解を与える表現があった」と認め、「(国民に)過分な期待を持たせた。おわびを申し上げねばならない」と謝罪した。
これまで首相は「シナリオにのっとって解明を進めている」などと追及をかわしてきた。それでも持ち主の特定困難な記録が4割残る現実を前に、これ以上申し開きはできないと判断したようだ。
ただ首相は、最後まで「公約違反」とは認めなかった。民主党は「誤りを認めないと従来の対策を転換できない」と迫り、8億5000万枚にのぼる手書き記録とコンピューター記録の全件照合などを求めている。しかし、千数百億円とみられる予算を工面できるすべはなく、記録のチェック要員増強が関の山。社保庁幹部は「何と批判されても、派手な解決策はない」と苦しい胸の内を明かす。
政府の窮状を見透かし、民主党は年金と、長寿(後期高齢者)医療制度をセットで攻撃する戦術に乗り出した。まずは15日に新制度の保険料の年金天引きが始まることに照準を合わせ、7日の予算委でも同党の松野信夫氏は「いきなり天引きとは悪代官の典型だ」と有権者の耳目を引く表現で首相を攻めた。
これに対し政府は、急きょ制度の名称を変え、国民年金の満額受給者(月6万6000円)の場合、今の平均保険料2800円が1000円程度に減る--といった試算結果を示すなど防戦に大わらわ。ただ、保険料は今後のアップが避けられず、政府は次の一手を打ち出せずにいる。【吉田啓志】
毎日新聞 2008年4月7日 17時23分