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2007年12月05日 11:21
メガネレンズと硫黄の意外な関係
こんにちは。Oliveです。
夏に温泉に行ったときに、メガネレンズと硫黄の関係の話をすると言い
ながら、早、季節は冬・・・。すみません。言い訳はすまい、という訳で
前振りは省略してすぐに本題に入りましょう。
ものにもよりますが、メガネレンズには硫黄が含まれています。
その透明な姿から考えると業界以外の方にはちょっと想像しがたいかも
しれません。
硫黄を入れる目的はズバリ、レンズの屈折率を上げるためです。
屈折率が高いと光を沢山曲げることができるので、レンズを薄くできるからです。
近視や遠視の度数の強い方はその恩恵を十分実感できるでしょう。
さて、「硫黄」と聞くと、皆さん、最初にどんなことを思い浮かべますか。
・硫黄の入ったレンズって臭くないの?
・硫黄が入ると色は黄色くならないの?
といったあたりではないでしょうか。
最初の質問ですが、「臭くない」が答えです。試しに匂いを嗅いでみて
下さい。臭くないですよね。でもこれは製品になっているときの話。
作っている最中は、・・・匂います。生産現場の方々、ご苦労さまです。
そして、メガネに加工するためにレンズを削るときも匂います。
加工される眼鏡店の方々、頭が下がります。
2つ目の質問の答えは、そう、黄色くなります。まっ黄色ではありません
が多少着色します。でも、見た目でそれと分かることはまずないでしょう。
レンズの着色は屈折率が1.6程度までならあまり影響ないのですが、そ
れ以上に屈折率を上げたいときは、硫黄原子を2個、3個、とくっつけて
(結合させて)導入しないと屈折率が上がりません。差し詰め、タグを組
ませてパワーアップさせるようなイメージでしょうか。このときに着色しや
すくなります。
硫黄原子は、1人のとき(分子中の硫黄原子が1個の化合物)はおとなし
いのに、群れると俄然、黄色くなりたい欲求がうずうずしてくるのです※。
そこで、高屈折率レンズの開発では、いかに硫黄を手なずけるかがポイ
ントになります。担当者は、着色をなるべく少なくするためにはどのよう
な形で硫黄を導入するのがよいのかを考えながら開発しています。
素材開発の難しさはそれだけにとどまらず、「屈折率が上がると色にじ
み(色収差)が生じ易くなる」というジレンマとのと戦いでもあります。
さらに苦労話を付け加えると、「高屈折率レンズはレンズの染色が難し
くなる」という難点もあります。
大きな原子である硫黄がレンズ素材の中に密に入っていると、染料が定
着する部分が少なくなるからです。つまり、とても染まりにくいレンズに
なってしまうのです。
高屈折のレンズは欲しいけれど、染まらないレンズは困る。あちらを立て
ればこちらが立たず、で新素材のレンズを開発する時は、素材開発のグ
ループと染色のグループとが協力し合って(加工性の問題もあるので、
研磨加工のグループも!)協同作業で開発にあたっています。
いろんな所でいろんな方が関わっているんですね。
※(おまけ)黄色く着色する原因について
弊社の素材のプロに聞いてみたところ、「着色の原因は硫黄原子のd軌
道の電子が共鳴するためと考えてください。」と言われ、簡潔に集約され
た美しい説明に思わずひるんで無言に・・・(汗)。
私の化学の知識は高校理系クラスレベル+αですが、言わんとするこ
とはかろうじて分かります。そういえば大学で、SP3混成軌道だとかの式
が教科書に載っていたことを思い出しました。
今や、語感だけの記憶ですけれど。