プレイステーションの場合だと、久多良木(健)さんが僕のところに来て今度作ろうと言うと、じゃあ、そいつにやらせてみようとなる。これが縦です。そうするとCPU(中央演算処理装置)がいるぞとか、レンダリングの動画の画像チップがいるぞとか、いろいろ足りないものが分かり、LED(発光ダイオード)のバックライトにしちゃおうとなっていきます。
── 横の技術の進歩だけで、何か自然に商品が生まれるように見えてしまうがちです。そうではなく、本当の成功は絶対に縦が必要なんですね。
そうです。だからその縦の思いと横の技術がぶつかる接点では、すごいバトルがあるわけです。いろいろな部門の現場の人間が「こんなものできない」とか言うわけです。そういうのが1つの商品作りのポイントであり、役者がいろいろといるから芝居ができるのと同じだと思うんです。
── 縦の方はデバイスなどの発展形態を見ながら、この時に何ができるという目利きもいるのですね。
30歳前の頃、パリに駐在していた時、岩間さんがリーダーになってCCDを作るぞという夢を彼が盛んに言っていた時、僕にはカムコーダーが目に浮かんだんですね。
CCDを使えばテープがあって、カムコーダーができるわけです。そうすると電子の目ができるわけで、それは素晴らしいですね、と。そういうCCDみたいなものは、製造上不可能と言われたものなんです。それをやったという現場力というのがあるわけです。おそらくその人たちよりカムコーダーを売った人の方が華やかに扱われるでしょう。でも日本の強さというのは陰に回って一生懸命やってくれる人たちにあります。
── それではカムコーダーは出井さんが?
いや、僕は見えたわけです。そのころ僕はベータ、VHSの戦争を終わらせようというところで、その時に隣でカムコーダー、8ミリをやっていたわけです。ベータの仕返しは8ミリだということで、デッキから何から全部作っていました。僕はひそかに盛田さんに、あれはカムコーダー、つまり8ミリに特化した方がいいですよというアドバイスをしました。
そうすると小型のビデオカメラが1個の産業になったわけです。そういうのがポイントで、あれを全部、テープが主体だと考えたら、8ミリはうまくいかなかったと思います。僕はCCDが重要だと思ったわけです。
── テープ主体じゃなくてCCDが主体だから、テープは別にVHSとか使わないでいいわけですね。
そうそう、そこにCCDの執念みたいなものがあります。ソニーができたというから他社がやったとしても執念がないから、ちょっと儲からないとやめてしまいます。
「米国型の金融資本主義では10年続けられない」
── 会社の執念。つまり10年は執念でやらなきゃだめなんですね。
絶対です。会社の執念があって、そこまで行くという筋書きができます。だから今の現場力も、そこへ向かううえで引き出される力なんです。
── 昔、大賀(典雄)さんにもう10年以上前だけど、天井に青いのを当てて、これだよ、これ、と言われたのを覚えています。それが10年たって、やっとブルーレイみたいな形になってきたわけですね。
ブルーレーザーを生かすためには、赤色レーザーとブルーレーザーとピックアップを作らないといけない。そのピックアップを作る人たちの、またものすごい努力というのがあります。
── この10年我慢できるという企業の執念というのが、なかなかすごい。
そこが僕の一番言いたいところです。米国型の金融資本主義では10年続けられない。短いサイクルで自分の期間に成績を出すというのではなく、日本のトップの人たちの責任というのは、自分の判断が必要で、いい悪いは後でいいと思います。例えば東芝の西田(厚聰)さんも僕は偉いと思うし、原子力の企業を買っておくとか半導体分野で強気に出るとか、社長というのは、ああいう判断をするもの。その判断が実ってくるのを、みんなで支えるというのが日本の会社だと思います。
僕らから見ると現場力っていろいろあるんだけど、組み合わせからいくと、ソニーはコンビネーションがうまい会社で、最近のブルーレイからFeliCa(フェリカ)もそうです。
フェリカのデバイスを作るのも、これもまた苦しみでした。OS(基本ソフト)が入っているし、ユーザーが作るようなパッケージが入っているし、そういうものがあったから、おサイフケータイが光ったわけだけど、あれがNTTドコモ、ソニーと結びつくという考えは、相当、会社の中でも理解されませんでした。何でドコモと一緒にやらなきゃいけないんだよ、と。