今年1月に誕生したタイのサマック新政権は、次々と新しい減税案を発表している。具体的な法案の成立にはまだ至っていないものの、個人、企業、そして外資企業や投資家にも希望を持たせる内容にあふれている。タイ国内に進出や投資を考えている日本の企業や投資家にとっても、その行方は注目すべきものだ。
タイのサマック・スンタラウェート首相
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政府支出の面から見ると、新路線を含めたバンコクの地下鉄、高架鉄道の拡張や、スワナプーム空港の能力拡大などがある。地方の自治体や産業を育成するための基金の活用、一村一品運動の促進、低所得者向けとして、低所得者用住宅の建設、農民の債務返済猶予、低利融資などが挙げられている。
これらは旧タクシン政権から既定の路線であり、選挙前にほとんどの政党が同じように主張していた政策あるいはその延長だ。
政権が稼働して新たに打ち出したのが減税だ。大きく分けると個人への減税、上場企業への減税、投資への減税、土地取引に関わる減税となる。これらは主に2010年までの時限を決めて実施する。
昨年のタイ経済成長率は4.8%。近年のバーツ高にかかわらず、輸出が18.1%伸び、海外からの直接投資は前年比60%増の5027億バーツ(1兆6086億円、1バーツ3.2円換算、以下同)と過去最大になった。クーデター政権が役割を十分に果たしていなかったことを考えると、経済は底堅い。
新政権が打ち出した時限減税プランは、底堅いタイ経済の成長を加速させる狙いがあると見られる。
所得税控除額は16万円増、投資所得の控除額も大幅増へ
個人減税では個人の所得税控除枠を、現在の年10万バーツ(32万円)から15万バーツ(48万円)にすることで、都市中間層の「手取り」を増やす。年収30万バーツ(96万円)のサラリーマンの所得税は10%なので、控除額が5万バーツ(16万円)増えると、5000バーツ(1万6000円)分の減税となる。
投資減税も打ち出している。タイでは5年以上の保有を義務づけて買う投資信託であるLTF(Long Term Equity Fund)の減税制度がある。現在、購入額に合わせて所得控除が最大30万バーツ(96万円)、所得税は約10万バーツ(32万円)まで軽減される。新政権はこの制度の適用所得控除額を、最大50万バーツ(160万円)に拡大する方針を明らかにした。
このLTFの減税制度は、日本円換算で100万円の投資信託を買った場合、現在の税率でも、30%近い損失を出しても、投資家にとって実質の損失はかなり軽減されることになる。損失リスクが軽減されることによって、長期的な投資資金を市場に呼び込むことが可能になる。控除額がさらに増えれば、より高額の資金が株式市場に流れ込む可能性がある。