ショッキングなニュースだ。国内最大級のがん治療施設「国立がんセンター中央病院」(東京都中央区)で、常勤の麻酔医10人のうち5人が、昨年末から今年3月にかけて相次いで退職、同センターの東病院(千葉県柏市)でも4月から1人になっていた。
退職した多くは、待遇のいい病院に転籍したというが、麻酔医はそんなにシンドイのか。
「全国1万の病院のうち4000が全身麻酔を実施していますが、麻酔医が常勤する施設はその半分と、そもそも麻酔医は慢性的に足りないのです。年収も、民間の病院なら30代半ばで1000万円を超えますが、がんセンター中央病院のような国家公務員だと、800万円がせいぜい。医療ミスで訴えられることも多いから、なり手が一向に増えないのが現状です」(病院関係者)
聞けば、とにかく現場は悲惨だ。医療ジャーナリストの油井香代子氏が言う。
「手術室の多い病院では、ひとりの麻酔医が数件の手術を掛け持ちするのが当たり前。麻酔の状況をチェックしたら、隣の手術室に大急ぎで走っていくという忙しさです。それに麻酔医は、最近注目のペインクリニック(末期がん患者の疼痛治療)も担当しているから、手術以外の仕事量も相当なものです」
こうした現状に嫌気して、最近増えているのが、特定の病院に所属しない「フリーの麻酔医」だという。
「彼らは、手術ごとにあちこちの病院と契約して報酬をもらい、年収も常勤医より高い。専門性も生かせるし、院内の面倒な人間関係とも無縁。休みも自分のペースで取れます」(油井氏=前出)
今年2月、年収3500万円で麻酔医を募集して話題になった大阪府泉佐野市の市立泉佐野病院では、それまで1日12万円でフリーの麻酔医を雇っていた。仮に月〜金曜日の勤務として、年収は約3000万円。確かに、国立がんセンター勤務の800万円とは月とスッポンだ。
ある国立病院の関係者が言う。
「患者は、大きな有名病院での手術を望む。でも、入院前まで2、3カ月待ちのうえに、麻酔医の手当てがつかなくなれば、再検査だけして手術まで2、3カ月放っておかれるという深刻な事態になりつつあるのです」
日本の外科医療崩壊の日は近いかも知れない。
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