先日、都内某所で開かれたあるパーティーの席で、たまたま複数の外務官僚と話をする機会があり、当然のように現在の政治情勢が話題になりました。その際、中国がもの凄い勢いで台頭する中で、日本が欧米諸国に対し、アジアの代表国は日本であると訴え、主張するためには自由、平等、民主主義といった「基本的価値」の共有を強調するしかないという話になりました。安倍前首相が掲げていた「価値観外交」にも通じるところがありますね。ただ、私は現在のチベット問題に関連する疑問があったので、こんな風に意見を聞いてみました。
「基本的価値の共有が重要なのは分かるが、現在の福田首相はチベット問題で中国擁護を繰り返し、チベット人の人権を軽視するような発言をしている。これでは、諸外国に対し、日本は基本的価値を共有しない異質な存在だというメッセージを発信しているようなものではないか」
すると、外務官僚の一人は顔に苦渋の色を浮かべてこう語りました。
「私は、(自分の担当国の外交官に意見を求められた場合は)福田首相の発言については『気にするな』と言っている」
…これは、福田氏のことは相手にするな、何を言っても深く考えるな、という意味ですね。わが国のトップリーダーの発言について、外国に対して「気にするな」と言わざるを得ないというのも悲しいものがあります。ましてそれを言っているのが外交当局者であるだけに、日本という国が置かれた寒い寒い現状に身震いを覚えずにはいられません。また、その場にいた別の外務官僚とは、昨年の参院選により「日本は十年、時を失った」という点で意見の一致をみました。しかも、本当に大切な十年を。
ただ、こうした何が国益を害しているのか分からない政治家は、福田氏だけではなく、日本の国会にはうようよいますね。例えば、米民主党のペロシ下院議長は、ブッシュ大統領は北京五輪開会式の不参加を検討すべきだと主張していますが、日本の場合はどうでしょうか。親中派の巨頭である河野衆院議長や、江田参院議長が福田氏にこういうことを迫るなんてちょっと考えられませんね。むしろ、喜んで参加させていただくべきだと進言するのが関の山でしょう。
で、親中派と言えば、加藤紘一氏を思い出しますが、この人も去年の参院選以降、党内外の保守勢力が退潮気味なものだから調子に乗ってますね。今月1日にも、外交などの超党派の勉強会「ビビンバの会」(何だこのネーミングは!?)で、出席者が多かったことに気をよくしてこんな放言をしでかしました。
「この会は中川昭一元政調会長や平沼赳夫元経済産業相らとは違い、『偏狭なナショナリズムはダメだ』という流れの会だ」
中川氏や平沼氏は、すっかり偏狭なナショナリスト扱いです。何を根拠にこんなことを言うのか、まあ、サヨクが得意なレッテル張りの類でしょうね。この加藤氏は、自身の事務所が放火された事件以降、テレビなどで言論の自由の尊さを訴え続けていますが、誹謗・中傷も自由だと言うのでしょうか。つい本音が出てしまったのかもしれませんが、それにしても軽い発言です。
また、加藤氏は中国との間で太いパイプを持つとされますが、今回のチベット問題では、公の場できちんと発信し、中国政府に抗議しているでしょうか?少なくとも、加藤氏が偏狭なナショナリスト扱いした中川氏や平沼氏に比べ、この点で見劣りするのは間違いありませんね。まったく、何のための親中派なのか。ちなみに、この加藤発言に対し、中川氏は3日の派閥総会でこう反論しています。
《こういう時期でありますから、党内にいろんな、また党外も含めていろんな勉強会等々ができるのは、私自身もやっているので結構だと思いますが、訳も分からずに安易に人のことを批判するというのはこれは黙っていられない。名前まで挙げられて、訳もわからない、どっちが国のことを考えているのかということは私は決して負けていないつもりでありますけど、安易に名前を挙げて批判するという方は、堂々と私のところに来てやっていただきたい。私も人のことは一言も言っているつもりはございませんし、言われた以上はこっちも反撃をしなければ国民に対して責任を取れませんので。まあ突然なにか分からない集団ができて、安易に人の名前を挙げてけしからんとかなんとか、って新聞報道でありますけど、それに対してはやはり政治家として一人の人間として黙っているわけにはいかないという気持ちを一人一人持つことがいまこそ大事ではないか。まああんまり言うとまた私も頭に血が上りますから、言いませんけど、いずれにしても志帥会、幹事長をもり立てながら国家存亡の危機でございますので頑張ってまいりたい。》
その中川氏が会長を務める真・保守政策研究会は4日に、ダライ・ラマ法王に近いチベット出身の政治学者、ペマ・ギャルポ氏を呼んで勉強会を開いています。その際のペマ氏の講演は以下のようでした。
《ペマ氏:もちろん私が話すことは、あくまでもチベット側の立場に立っての説明ですので、中国には中国の言い分があるでしょうから、それはまた何かの機会で聞いていただければ、そして比較すれば真実は何かということが明確になると思います。(中略)
(世界のリーダーらが、北京五輪開会式欠席を表明したり、中国側にダライ・ラマ14世との対話を促したりしていることを紹介し)…ドイツのメルケル首相は、ダライ・ラマと会ったことを中国が抗議したときに、「誰と会うかということは、ドイツの首相が決めることであって、いちいち外国から指図を受けるものではない」とはっきり言ってくださったんです。アメリカのブッシュさんも今のところ(五輪に)行かないとは言っていないが、議会は先週辺りから行くな、ということで動いています。もし行くとしたら逆にはっきりと話をするということを言うでしょうし、行かなかったらそれもそれなりに影響があると思う。そういう意味で日本の首相も何らかの形で勉強し、これに対してコメントを出さないと、今みたいに「(胡錦涛が)日本に来るまで、ギョーザとチベット問題を解決してほしい」と言うのでは、ちょっと情けないんじゃないかと思います。
日本の皆さんに訴えたいことは、チベットが最後に独立軍を持ったときに、チベットの軍事顧問は日本人の矢島保治郎先生だったということ、そして先の対戦相手、日本は中国と戦ったがチベットとは戦っていない。戦うどころかチベット政府は日本と間接的にかかわっていたということ。そしてチベットが間接的敗戦国になったということ。そういうことについて、ぜひ調べていただければ全部記録があります。日本から相当の資料をアメリカに持って行って、アメリカの議会の図書館にあるということで、例えば当時、日本政府はチベットに武器、弾薬も提供しています。そういうこと(資料)はアメリカの議会にあったということを中国の学者がちゃんと本に書いているので、そういう意味でも日本は道議的にもチベットに対して、本当はもうちょっとモラルサポートをする責任があると思っています。
それから、チベット戦50年、木村肥佐生先生、日本の特務機関として行ったわけですけども、日本が負けた後もずっとチベットの人がかくまって英国にも渡さなかった。最終的には先生自身が英国の方に、というかインドに自首しました。そういうこともあんまり日本の皆さんは知られていないです。
それから、今回デモで使っているチベットの国旗、あの鮮やかな国旗。あれは青木文教先生の提唱で、元のチベットの●(聞き取れず)を少し変えて国旗にしたんです。それまでチベットというのはあまり必要性がなかったんですね。13世のときに国旗をつくるといったときに、青木文教先生がかかわって、日本のアサヒビールの、まあ、日本海軍の軍旗(のデザイン)を少しいただいてつくっているわけです。そういうことで日本とチベットの関係については特に1920年から非常に頻繁に接触していたということを含めて、もうちょっと考えていただきたい。
それから、チベットは世界のもっとも資源の豊かな国です。230万平方キロメートルのところは、ものすごく資源が豊富です。それからチベットのほかに、ウイグル、内モンゴル、それから朝鮮系の人々などなど、みなさんが今日できたら、中華人民共和国っていう国を地図を一回広げていただくと、なんとか自治県、自治州、自治区、自治と書いてあるところは全部中国以外の領土だということ、それして自治と書いてあるところは自治がないから自治と書いてあるということを是非皆さんに思っていただきたい。それを全部合わせたら、日本の経済界は日本の利益とか言ってますけれども、日本の本当の長期的利益を考えたら、チベットに関心を持つことが日本の長期的な利益だと思います。
それから戦略的にも地政学的にもチベットがいかに重要であるかということは先生方に私が申しあげるまでもありません。チベットに対して、モンゴルに対して、ウイグルに対して、日本が大きな関心を持つことができれば、中国と日本も、正常な関係が成り立つと私は思います。》
…福田氏の発言は「情けない」とまで言われてしまいました。本当にどこに出しても恥ずかしい首相で、国民の一人として忸怩たる思いに囚われます。ちなみに、10日に来日するダライ・ラマ法王とは、日程調整がうまくいけば、平沼氏も面会する予定だと聞いています。福田氏や加藤氏が面会に行けば少しは見直すのですが、そんなことはお日様が西から昇って東に沈むぐらいありえないのでしょうね。すいません、書いてみただけで、全く期待していません。
散った桜の花びらで、道が桃色の化粧をほどこしているようでした。桜の季節も終わりに近づきました。今朝の毎日新聞によると、福田内閣の支持率は24%でした。フジテレビと産経の調査が23.8%でしたから、ほぼ同じような数字が出たわけです。昨年9月の自民党総裁候補討論会で、首相に一番大切な資質を聞かれた福田氏は「辞め際だ」と答えました。さて、ご自分の言葉通り、桜花のような潔い散り際を見せてくれるのでしょうか。
by hanausagi
チベット問題・どこに出しても…