40―74歳の国民5600万人を対象に、生活習慣病を減らすための「特定健診・保健指導」が鳴り物入りで始まった。いわゆる内臓脂肪症候群(メタボリック・シンドローム)に着目し、該当者や予備軍を見付け出して食習慣や生活習慣を改めさせる新たな仕組みという。
この健診には専門家の間にも批判がある。おなか周りの長さを測定する基準の根拠が薄弱である、企業が運営する健康保険組合などの負担が大きい、などだ。
国民医療費が過度に膨張するのを抑えるためにも、生活習慣病の予防対策が重要なのはいうまでもない。しかし国が根拠の乏しい基準を一律に押し付け、また状況の改善が振るわない健保の運営者に金銭的な罰則を科すのは行き過ぎではないか。
健診の基本は腹囲測定だ。男性85センチ以上、女性90センチ以上の人を対象に血圧、血糖、脂質などの値を加味して生活習慣病になるリスクの高い人をふるい分ける。この人たちは発症リスクの高低に応じて3グループに分類される。リスクが最も高いグループは保健師などの面接指導を受け、その後も電話や電子メールでも3カ月以上、指導される。
この腹囲基準は日本肥満学会が決めた。「世界標準」と異なり、男が女より小さい。たとえば国際糖尿病連盟などが日本人向けとしている基準は男90センチ、女80センチだ。日本独自の基準は、特定健診の実現を推し進めてきた一部グループが集めた少数のデータからはじいたものだ。性差に関するデータ処理を疑問視する声は医学界にも少なくない。
さらに問題なのは、5年後の健診の実施状況やメタボ該当者などの減少率が低い健保組合は、後期高齢者医療制度(長寿医療制度)に払う支援金が増額されることだ。
やる気を出させるためとはいえ、健保が従業員にウエストを絞るよう懸命に促すのは奇異だ。そんな経営者はいないと信じたいが、メタボ社員を人事や賃金の面で冷遇するようなことが起こる心配はないか。
病気予防は一人ひとりの自覚が基本だ。健診が始まれば想定していなかった問題点が明らかになろう。それを早めにチェックし、必要な見直しをする責任が厚生労働省にある。