富山、金沢、福井の三都市はともに城跡を中心に広がる城下町だが、街を歩いてみると印象はかなり異なる 戦災に遭った歴史とは別に地形の問題であり、道路が直線的で平坦なのが富山や福井、一方の金沢は高台の城を囲んで道路がうねっている。そして何より、先の二都市との違いは坂道の多さだ 金沢の茶屋街、主計町の小さな無名の坂が五木寛之氏の小説の中で「あかり坂」と命名されて話題になっている。隣の有名な「暗がり坂」との対照である。二つの坂が対になって街の陰影を際立たせる 住民も気に入り、市も標柱を立てて重要伝建地区指定時に花を添える。都市の魅力を競う時代の主役は女性といわれる。古くて新しい女性を描いた文豪・泉鏡花の生家跡にも近く、明暗の対比は浅野川を女川、犀川を男川と呼んだ金沢の風土を思い出す 坂にも男坂と女坂がある。東山寺院群に残る男坂と女坂の呼称例にならえば、かつて男たちが茶屋街へ通った「暗がり坂」は男坂であり、「あかり坂」は女坂にふさわしい。川とは逆に、明るい坂を女坂と呼ぶのがいい。折しも主計町の桜満開である。
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