先日、百一歳で亡くなった児童文学者の石井桃子さんが、東京の自宅を開放した「かつら文庫」は、子どもたちが良い本に出合えることを願い一九五八年につくった。
現在は財団法人・東京子ども図書館の分室となり、五十周年を祝った。日銀岡山支店長の鵜飼博史さんは、子ども時代に同文庫に通って読書に熱中した一人だ。「考える力を身に付ける原点」になったと、二〇〇六年十月四日付本紙夕刊の一日一題で強調している。
石井さんは、五・一五事件に倒れた犬養毅元首相の蔵書整理のため犬養家に出入りしていたことがある。一九三三年のクリスマスイブに一冊の洋書と出合った。
縫いぐるみのクマのプーさんが活躍するミルンの童話「プー横丁にたった家」だ。犬養家の子どもたちに即興で訳して聞かせながら、不思議な世界に引き込まれ、児童文学への道を歩むきっかけとなった。
初の創作「ノンちゃん雲に乗る」は、終戦後に出たベストセラーだ。優等生のノンちゃんが池に落ち、雲のおじいさんと会って家族や自分を見つめ直す。問題のない「良い子」の内面を扱ったところに、現代に通じる新しさを感じる。
本の持つ力は大きい。人生に大きな影響を及ぼすこともある。石井さんをとりこにした児童文学の魅力を子どもたちに伝えていきたい。