頼まれてもいきたくない北京五輪
欧米諸国首脳の開会式ボイコットや、聖火リレーの妨害など北京五輪は日ごとに好ましくないムードが強まっている感じだ。3月31日、ギリシャから北京に着いた聖火歓迎式典のクライマックスで聖火台に点火したのが胡錦濤国家主席だったのも、五輪の政治化どころか政治そのものに見えた。
点火はふつう開催都市の市長あたりの役どころだろう。しかし、胡主席のほか共産党幹部が多数出席し北京市長は司会役だったという。中国の大国化の象徴となる北京五輪。統率するのは北京市長でも中国オリンピック委員会のトップでもなく、胡主席であることを全世界に知らしめたような式典だった。
何やら、ユダヤ人差別で世界から批判されながらも、ヒトラーがナチスドイツの力を誇示するために開いた1936年ベルリン五輪を思いだしてしまう。聖火リレーはそのベルリン五輪から行われ第2次大戦が始まると、ナチス軍は聖火リレーが下調べになったかのように、そっくり反対のコースで侵略を続けた。
真偽はともかく「ヒトラーが聖火を政治利用した」と根強くささやかれた。今回、聖火はチベットの象徴である世界最高峰エベレスト(チョモランマ)に登る。チベットが中国の一部であることを世界に印象付けるつもりか、最大級の政治利用だが、こんなに国際的なイメージが悪くなっては労多くして功少なしの感もある。
聖火は1日に北京を出発した。歓迎式典では会場は完全封鎖され、市民は追い立てられて遠巻きの見物も許されなかったという。聖火でこの厳戒態勢。大会が始まったら、観光客は随所で不愉快な思いをすることだろう。頼まれてもこの五輪だけはいきたくない。
(サンケイスポーツ・今村忠)