キャラバンは2006年施行の自殺対策基本法を受け、特定非営利活動法人(NPO法人)ライフリンク(東京)が呼び掛けて官民一体で巡回している。
福岡市でのシンポジウムは400人ほどが参加した。強い印象を与えたのは第二部「自死遺族のメッセージ」だった。2004年9月から2カ月に1回、福岡市で「遺族の集い」を主催するリメンバー福岡代表の井上久美子さんが、延べ380人が参加した集いのボランティアスタッフとして気付いたことを語った。
追い込まれた末の死である自殺を「悪いこと」と決めつけてしまう私たちが、遺族を励ますつもりで口にする「頑張りなさい」「気を落とさないで」「かわいそうに」といったひと言が、遺族にどれほど疎外感と自責の念を強いているかを、しみじみと訴えた。
井上さんとともに匿名で登壇した女性は、息子を亡くして数年がたち、かつての友や知人があえて息子のことを思い出さないでおこうとする感情を抱き始めたことについて「息子がこの世に存在しなかったかのように忘れ去られるのは耐えられない」と吐露した。加えて、いまも街の雑踏に息子の姿を捜し続ける母の悲しみも打ち明けた。
遺族の集いを記録した映像も放映され「私がもっと良い対応をしていれば、家族は死を選ばずに済んだのではないか」と苦しみ続ける人たちの姿が映し出された。
パネルディスカッションでは、ライフリンク代表の清水康之さんが、遺族の痛みを理解することによって「安心して悲しむことのできる社会」をつくりたいと話した。弁護士や医療者などは、多重債務で苦しむ人、うつ病の人に対する的確な助けと、自殺の背景にある社会の問題にも目を注ぐ大切さを訴えた。
基調講演とコーディネーターを務めた九州大医学研究院精神病態医学の神庭(かんば)重信教授は、行政などが設置する相談窓口を一元化するなど、法整備を受けた自殺総合対策にはさまざまな角度からの取り組みと連携が欠かせないことを説いた。
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●自死遺族・シンポ 熊本7日、鹿児島9日
自死遺族支援全国キャラバンは7日に熊本、9日に鹿児島でも開かれる。いずれも入場無料、誰でも参加できる。
▼自死遺族支援全国キャラバン@くまもと 7日午後1時―4時、熊本市花畑町の国際交流会館。自死遺族の体験談に続き、ライフリンク代表の清水康之氏、Re代表の山口和浩氏、くろかみ心身クリニック院長の本島昭洋氏、カウンセリングオフィスKMJメンタルアシスト代表の松下弘子氏らによ討論「私たちにできること」。熊本県精神保健福祉センター=096(359)6401。
▼支え合ういのちとこころ―いま、わたしたちにできること 9日午後1時―4時、鹿児島市谷山中央1丁目の谷山サザンホール。自死遺族からのメッセージに続く討論は、清水康之氏、山口和浩氏、鹿児島いのちの電話運営理事の平川忠敏氏らが出演する。鹿児島県障害福祉課=099(286)2754。
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●支援ネットRe代表山口和浩さん描いた 「ぼくの父さんは、自殺した。」出版
中学生のときに父を自殺で亡くし、いまは自死遺族支援ネットワークRe(アールイー)の代表を務める長崎県大村市の山口和浩さん(27)を主人公にした「ぼくの父さんは、自殺した。-その一言を語れる今-」(今西乃子(のりこ)著)が出版された。
茶農家を営み、借金に悩んでいた父が自ら命を絶った現場を発見した山口さんは、怒りと悲しみ、父を助けられなかった自責の念に苦しむ。だが「長男だから、しっかりせんとね」という周囲の励ましや「自殺した人の子」という偏見に耐えられず、悲しみを封印して育った。
高校・大学と奨学金を受けたあしなが育英会が主催する「つどい」に参加し、リーダー役も務めるなかで、自死遺児たちはそれぞれに、人に言えない悲しみを秘めていることを知る。
実名を公表し、Reやライフリンクやあしなが育英会を通して、遺族に寄り添い、自殺対策を社会に問い掛ける山口さんの誠実な生きようが描かれている。そうえん社。1200円(税別)。
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Reが主催する次回の分かち合いの会は9日午前10時から、大村市上諏訪町の社会福祉法人カメリア多目的施設で。参加費300円(お茶代など)。問い合わせはメール=info@re‐network.jp
【写真説明1】生きづらい世の中を生きる自死遺族をどう支えるかなどについて討論したシンポジウム=1月25日、福岡市中央区の西鉄ホール
【写真説明2】「ぼくの父さんは、自殺した。」
=2008/02/04付 西日本新聞朝刊=