◎「花の恋」放送へ 同一視できない台湾と中国
石川県を舞台にした中台合作のテレビドラマ「花の恋」が、小松と台湾を結ぶ定期便就
航を目前に控えた絶好の時期に、台湾で放送されることになった。喜ばしいことではあるが、制作決定から三年半にわたって迷走に迷走を重ねた揚げ句の放送開始であり、しかも、当初予定されていた中国での放送見通しがいまだに立っていない点を忘れるわけにはいかない。
私たちは、台湾と中国をつい同じように見てしまいがちだが、社会の仕組みや人々の考
え方、商習慣などはまったくと言っていいほど違い、同一視はできない。これからも小松発着の台湾便、上海便の利用促進や観光誘客などについては、両者を別物と考えて取り組む必要がある。
「花の恋」について言えば、テレビドラマに兼六園など石川の名所を織り込み、魅力を
海外に発信するという発想自体は決して悪くなかった。特に、台湾のように日本に関する情報に敏感な人が多い地域では、テレビによるPRの効果は大きいだろう。ただ、台湾だけではなく、中国での放送も狙ったのは正解だっただろうか。
経緯を振り返ると、ドラマ制作が決まり、それを支援するために県や関係市町などが実
行委員会を発足させたのは〇四年八月であり、〇六年春には県内ロケが行われた。ここまではおおむね順調だったのだが、台湾でも中国でも受けるドラマにしようと、日本、台湾、中国の俳優を起用したため、吹き替え作業などに時間がかかった。中国の番組制作会社の仕事の遅さも目についたという。結局、中国版のマスターテープが完成したのは昨年七月、台湾版が出来上がるまでにさらに半年以上を要した。
もし、最初からターゲットを台湾だけに絞っていたら、放送時期がここまで遅れること
はなかったかもしれない。しかも、仮にこれから中国での放送が実現したとしても、その効果を疑問視する向きは少なくない。もたもたしている間に小松―台湾便の就航が決まり、「結果オーライ」の形になったとはいえ、迷走の経緯をきちんと検証した上で、その教訓を今後に生かさなくてはならない。
◎公務員改革基本法案 骨抜きを玉虫色で隠した
国家公務員制度改革基本法案が閣議決定されたが、縦割り行政の弊害すなわち国益より
省益優先という官僚支配にとどめを刺す、立派な基本方針だと評価できないのである。むしろ懸念していた通りのしろものになった、取り去るべき腐った幹が玉虫色の枝葉で隠されて残ったといいたい。
なぜならまず第一に、縦割り行政の弊害をなくすため、内閣主導による人事の一元化を
目指す「内閣人事庁」を内閣府に創設するとの、今年二月の有識者会議の提言が無視されたのである。なるほど人事庁は創設されることになったが、各府省の幹部人事を閣僚が決める際に、人事庁は閣僚に助言や情報提供をするという程度の権限の弱いものに後退してしまい、人事権はこれまで通り各府省の事実上のトップである次官の手に残る可能性が否定できないのだ。
短期間に入れ代わる閣僚はどうしても官僚のトップの次官に操られる。だから、閣僚が
幹部人事を決める際に助言や情報提供をするといっても、結局は主のような次官の意思に従わざるを得ないことになりかねないのである。
第二に、現行の「キャリア制度」の廃止が盛り込まれ、採用試験を「総合職」「一般職
」「専門職」に再編するとしているが、これまでと、どこが、どう違うことになるのかよく分からない。悪くいえば、意図的な踏み込み不足のようにみえるのだ。
ただ、評価できるものとして国会議員との接触を担当する「政務専門官」の新設がある
。これは従来の族議員と霞が関のもたれ合いの構図に変質を迫る可能性を持つものとして注目していきたい。
それにしても、渡辺喜美行革担当相の主張や有識者会議の提言の要がそぎ落とされてい
る。渡辺氏は「百点満点ではないが、進むべき方向性は担保された」と語ったが、族議員や官僚組織の抵抗がいかに頑強であったかが行間から読み取れるのである。
政府は今通常国会での成立を目指すが、玉虫色で隠された骨抜きが国会で追及され、修
正されることを望む。