地方の銀行に29年間、パートタイムとして勤める女性(56)は時給約900円。同じような仕事をしている30代の男性行員とは時給換算で3倍もの差がある。正社員として採用してほしいと銀行に度々要望しても「あなたはパートで雇ったんだから」と相手にされなかった。
パートは正社員よりも働く時間が短い労働者を指すが、パートだからというだけで差別を受けてきたと訴える人たちは少なくない。今月から施行された改正パート労働法はそうした差別をなくし、正社員と均衡のとれた処遇の実現を目指すことが目的だ。各企業はその趣旨を十分に理解し、パートと正社員との格差を早急に是正する契機としなければならない。
企業は賃金が安く、雇用調整もしやすいパートを大量に採用してきた。昨年のパートは1346万人と過去最高に達し、全雇用労働者の4人に1人を占めた。パート全体の7割が女性で女性雇用労働者の4割にも上る。働き方が多様化し、パートを望む主婦らも多いが、これほどパートが労働力の中核を担う存在となってきた以上、待遇改善の実現は待ったなしの課題だ。
改正法は、仕事の内容や責任、人事異動の有無などが正社員と同一で、かつ期限の定めがない雇用に等しいパートの場合、賃金や福利厚生の面で正社員との差別を一切禁じることを企業に義務付けた。正社員と同一でなくても、それぞれのレベルに応じて格差の解消を図る努力も求めた。
とりわけ、企業はパート個々の能力や意欲、成果を勘案して賃金決定をするよう努めなければならないと明文化した意義は大きい。企業はパートだからという安直な判断が許されなくなり、一人一人の貢献ぶりを見極めて評価していく必要がある。
改正法は、パートから正社員への転換を進めるための制度導入なども企業に義務付けた。さらに待遇の決定理由について求められた場合、説明する義務も企業に課した。不合理な説明は通用しなくなるはずで、パートの人たちは自らの待遇改善に向け、この条文も有効に活用したい。
もちろん改正法には課題も残る。差別禁止義務の対象となるパートはわずか5%に過ぎないといわれる。労働時間が正社員と変わらない「疑似パート」と呼ばれる人たちは法の対象外であるのも問題だ。正社員への転換制度も、パートから数年間の嘱託社員を経なければ採用試験を受けられない仕組みにしたり、形式的に正社員採用の掲示を社内に張ったりしただけの企業もある。
改正法が実際に格差是正にどのぐらい役立っているか、厚生労働省は定期的にしっかり検証すべきだ。そして、同一の労働には同一の賃金支給が実現するよう、必要に応じて再改正も検討してもらいたい。
毎日新聞 2008年4月6日 0時03分