続発する硫化水素自殺 怖い2次被害、家族や隣人巻き添え2008年04月06日13時10分 大阪府枚方市郊外の住宅地。会社員宅は7人暮らしだった。
4日朝、異変に最初に気づいたのは、浴室から流れてくるロック音楽の大音響を不審に思った義父(74)だった。 浴室の扉は粘着テープで目張りされ、開けると長女が横向きに倒れていた。助けに入ろうとした妻が意識を失った。救急隊が駆けつけた時には、卵が腐ったような異臭が漂うなか、長女と折り重なるように倒れていた。 浴槽には液体がたまり、そばに数本の洗浄剤の容器があった。 「もうすぐ好きな歌手のコンサートに行くんです」 長女は自殺する数日前、勤め先の同僚にこう話した。上司の男性は「なぜこんなことになったのか。残念でなりません」と唇をかんだ。 その半日後、京都市北区のアパートで、会社員の男性(24)が自殺。化学消防車も出動し、アパートの住人が避難する騒ぎになった。浴室に洗浄剤などの容器6本と、調合に使ったとみられる鍋が残っていた。容器は枚方市のケースと同じ商品だった。 特定の洗浄剤とある成分を混ぜると、硫化水素が発生する。いずれもスーパーなどで買えるものだ。 ◇ ◇ 高濃度の硫化水素は、数回吸っただけで脳の中枢神経が破壊されて呼吸ができなくなる。そして、この有毒ガスの特徴は密閉状態ではすぐ拡散せず、周囲が巻き添えになりやすい。 神戸市北区では今年3月、アルバイト男性(27)が浴室で自殺し、助けようとした父親が意識不明の重体となった。大阪市港区で2月末に男子大学院生(24)が自室で自殺した際は、家族2人が病院に運ばれ、幹線道路も一時通行が規制された。 岡山市で3月、公務員の男性(42)が車内で自殺したケースでは、救助しようとした巡査2人が頭痛を訴えて入院。岡山県警は対応策として、警察署に空気呼吸器や簡易マスクを配備する方針だ。大阪市消防局も呼吸器を着けて対応するよう各消防署に指示している。 ◇ ◇ このような自殺がなぜ広まったのか。 数百人の未遂者を取材してきたジャーナリストの今一生(こん・いっしょう)さんは、昨年3月に起きた高松市の男子大学生(当時24)の自殺がきっかけとみる。学生はアパートの浴室に目張りをして、玄関ドアには、硫化水素が発生していることを知らせる張り紙をしていた。 これが報じられると、インターネットの自殺サイトや掲示板で「硫化水素ってなに?」といった質問が相次いだ。それに答える形でつくり方が書き込まれ、「練炭自殺に代わる方法が開発された」などと紹介された。 大阪市のケースでは「有毒ガス発生中、警察呼べ」のはり紙があり、神戸市では「有毒ガス発生開けるな」とあった。今さんは「硫化水素自殺は手軽で簡単という一面的な情報がネットにあふれている」と危機感を募らせる。 ネット上での関心は依然高く、枚方市の自殺の後、ある匿名掲示板への書き込みは1日で1千を超えた。 ■生き残っても障害 中毒死に詳しい浜松医科大学の鈴木修教授の話 硫化水素は毒性が強く、一命を取り留めても重い脳障害が残る恐れがある極めて危険な有毒ガスだ。ネットでの「苦しまずに死ねる」などという記述をうのみにしてはならない。さらに、周囲の人を二次被害に巻き込む危険性がある。このガスは空気より重いので、アパートなどの上層階で起こった場合は、下層階の住民が被害を受ける危険もある。やむを得ず自殺現場に入る場合は風上の窓を開け、風下にまわるときは息を止めて本人を新鮮な空気のあるところに連れ出すことが必要。床にガスの層ができるため絶対にしゃがんではいけない。 PR情報社会
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