ワセダコム 写真
オピニオン 社会情勢に対する早稲田大学教員の意見を紹介。
知の共創 早稲田大学で活躍する研究者の最新研究内容を紹介。
教員の視点 早稲田大学教員、執筆記事を紹介
学生の視点 早稲田大学で学ぶ学生をクローズアップ。座談会の模様も。
早稲田スポーツ 早稲田スポーツの編集協力で、各運動部の活躍を紹介。
キャンパスナウ 早稲田大学の最新情報をマンスリーで紹介。
早稲田大学ホームページへ
オピニオン バックナンバー トップページへ
小型風力発電機による環境教育
写真
橋詰 匠
(はしづめ・たくみ)
理工学術院教授
略歴はこちらから
つくば市とのコラボレーション

 つくば市は、平成16年度環境省「環境と経済の好循環のまちモデル事業」地域に選定され、つくば市まほろば事業「草のNeco2(草のネコ:Grass Roots Networks for Exchange of CO2の略)ちっぷ事業:http://www.tsukumaho.net/about_f.html」( 平成16年度〜18年度)に着手した。このプロジェクトのハード面での中心は小形風力発電機で、導入機種として、早稲田大学と日本工業大学とが共同で開発したダリウス・サボニウス併結形風力発電機が採用された。初年度事業として、市立小中学校19校に23基の小形風力発電機(10kW/1基)が設置され、運転が開始された(写真1)。最終的には、全市立小中学校(52校)に、75基(10kW×75基)の風力発電機が設置される予定だ。発電された電力は小中学校で使用され、余剰電力は東京電力に売電し、その収入で地域通貨(草のネコチップ)を発行し、市民が環境にやさしい商品の購入に当て、環境と経済の好循環な町つくりを推進するもの。また、これを契機に、導入する風力発電設備を小中学校における環境教育に有効に、積極的に活用することが企図されている。早稲田大学では、理工学総合研究センターが窓口となって、風力発電機の設置から運用に至る支援に併せて、小中学校の環境教育に関しても、小中学校教育関係者と連携を密にし、学習プログラムの企画・実践面で協力していく。 今後は、環境教育にとどまらず、科学実験教室開催、教育プログラムの企画などへの支援が、より多様な形で、活発に行われるものと考える。

ダリウス・サボニウス併結形風力発電機


つくば市の小学校に設置された小形風力発電機
 つくば市内の小中学校に設置された小形風力発電機は、プロペラ形風力タービンと同じ原理で回る揚力形のダリウス形風力タービン(写真1:帯状の3つの翼部分)に、カップ形風速計と同じ原理で回る抗力形のサボニウス形風力タービン(写真1:半割りの筒状部分)をダリウス翼の回転閉空間内に、回転軸を共有して組み込み、それによって発電機を駆動する、ダリウス・サボニウス併結形風力発電機と呼ぶもの。風力タービンの回転軸が地上に対して垂直であることから、プロペラ形風力発電機のように風向に左右されることがなく、風向が頻繁に変わる地域での利用に、また一般的な風力発電機に比較し低騒音であることから都市部での利用にも適している。この種の垂直軸形風力発電機は、局所的な風力エネルギーを利用する分散型発電システムとして、島嶼部、沿岸部、内陸・山間部等に多く採用されている。われわれのダリウス・サボニウス併結形風力発電機についても、実用化以来数年で、北は石狩中学校(北海道)、南はNHK沖縄放送局(沖縄県)に及んで、全国40ヶ所に設置され、稼動している。

小中学生のための科学教育支援


スケールモデル(タイプA)
  早稲田大学理工学部では全国の小中学生を対象に、毎年、科学実験教室:ユニラブ(Universal Laboratory:http://www.sci.waseda.ac.jp/unilab/)を開催している。本年度で18回を迎えた。毎回、約40〜50のオリジナルな学習・体験プログラムを用意して、理工系のスタッフ、研究室、学生が指導・支援に当たっている。また、各地の小中学校に学内スタッフが出向いて、当地で科学実験教室を開催することも行っている。このような中で、理工学総合研究センターのプロジェクト研究を通して、学内スタッフによって、小中学生への環境教育支援を目的とする、教材キットとしてのダリウス・サボニウス併結形風力発電機の縮小スケールモデルを開発してきた。やや大きめのもの(タイプA/写真2)と手のひらサイズのもの(タイプB/写真3)の2種類を開発。タイプBについては、早稲田大学と墨田区との包括協定に基づき、部品製作を同地域の事業者が担当する。これらのスケールモデルによって、部品(タイプA:130点/タイプB:40点)を組み立てながら、風力発電機の構造と原理を理解するとともに、完成後に、扇風機等の身近な人口風で回転させ、風力発電を体験することができる。小中学生の学年や理解力に応じて、風速と回転数や発電機出力との関係を測定する実験、風が吹き風車が回り始める様子を観測する実験など、様々な実験を行うことができる。さらには、つくば市のように身近なところに実用の風力発電機が設置されている学校では、自然風による実際の発電を体験・観測することができることから、両者を使い分けることによって、より楽しい学習へと結びつく。最近では、容易にコンピュータやインターネット技術を利用することができ、別々の学校で測定した運転データを共有すること、工夫して運転データをさまざまな形に表現することもでき、興味は尽きず、学習意欲は盛り上がると確信する。

おわりに


スケールモデル(タイプB)
  大学においては、基礎教育と併せて、より最先端、高度な研究・教育が求められている。一方で、大学での研究・教育をより効果的、有意義なものとするためには、大学に進学する前の若い世代、高校生も大切な世代ではあるが、さらに若い世代である小中学生に対する積極的な支援も重要である。大学のスタッフは、先端・高度な技術や理論を小中学生にわかりやすく伝える立場にある。とりわけ環境問題への認識と適切な対応は、小学生の幼い頃からの生活習慣とも密接に関わることから、小中学生への環境教育の充実化は急務なことと考える。早稲田大学がその一役を担いうればと願っている。
職歴:
1974年 早稲田大学理工学部機械工学科卒業
1976年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了 早稲田大学 理工学研究所 助手
1980年 早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了(工学博士) 早稲田大学 理工学研究所 専任講師
1982年 早稲田大学 理工学研究所 助教授 1987年 同上(現理工学総合研究センター) 教授
2002年〜 同上 副所長 現 早稲田大学 理工学術院 教授

著作(3件):
・ 「どのような風でも回る新型風力発電機」、早稲田学報、早稲田大学校友会、通巻1141号/復刊第58巻 第4号、(2004.4)、pp.22-25。
・ 「ビジネスリスク分析入門」、早稲田大学出版部、早稲田大学理工総研シリーズ22、(2005.6)。
・ 「大学課程 計測工学(第3版)」、オーム社、(2000.2)。
ニュースの詳細は朝日新聞紙面で。» インターネットで購読申し込み
asahi.com に掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています
| 朝日新聞社から | サイトポリシー | 個人情報 | 著作権 | リンク| 広告掲載 | お問い合わせ・ヘルプ |
Copyright 2005 Asahi Shimbun. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.