TORIGOE
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鳥越俊太郎の「あのくさ こればい!」

第147回

ほぼ日編集部様

5月24日のニュースから

これは実は昨日、つまり23日のニュースなんですが、
どうしても取り上げておきたいので、
一日遅れを承知で読んで下さい。

新聞は3面の下の欄に
役所や新聞社の人事異動を載せている。
皆さんにはあんまり関係ないので
ご覧になることはないでしょうが、
私は人の動きから世の中が見えるので
結構目を通しています。
さて、23日の朝日新聞のその欄に
こういう人事が出ていました。

「最高裁人事(23日付)依願退官
 (東京高裁部総括判事) 木谷 明」

 
その隣に読売新聞の人事異動が出ていまして、
誰か知っている人がいないかなあ、と
目を移して見ていたんですが、
なにかひっかかるものが頭に残っていて、
何だろうと思ってひょいと目をまた元に戻して
最高裁人事の項を見ました。
その瞬間、さっきからの違和感は
「依願退官」という4文字にあることが分りました。
ふーん、高裁の総括判事が依願退官か、
なにかあったのかなあ?
まあ、それぐらいでその時は終わりました。
一応毎日新聞もチェックしてみました。

「最高裁(23日)退職(東京高裁部総括判事)木谷明」

毎日はあっさりと書いていて「依願」の文字はない。
ええっ、毎日はなぜ「依願」がついてないのかな?などと
疑問を持ち始めると、どうも気になって仕方がない。

普通、「依願退職」は本人の求めにより退職することを
意味しているのでどうということはないはずなんだが、
警察の不祥事を取材していると
「依願退職」にはかならずと言っていいほど
裏にスキャンダルや不祥事が潜んでいることが多い。
で、どうしても「依願退職」の4文字に
身構える癖がついてしまったらしい。
でもこの時点ではそれ以上詮索の仕様がない。
ところが、です。

テレビ局で新聞各紙を何気なく見ていてあっと、
声を出してしまいました。
東京新聞の社会面に
こんな見出し(4段)が出ていたのです。

「東電社員殺害 拘置要請退けた裁判長 木谷判事が退職」

あ、これだ!
朝日の「依願退職」の中身はこれだったんですね。
記事によると、
木谷判事は定年まで2年半を残しての退職だそうです。
さて、東京新聞も退職の原因を
ストレートには書いていませんが、記事を読むと
ははーん、そうかと思わせるものがあります。

木谷判事は東京高裁第5特別部裁判長として
先月(4月)20日、ある決定を行ったという。
この決定が今回の「依願退職」の
導火線になっているフシがあるようです。
その決定とは次のようなものです。

皆さんは東京電力の女性社員が
渋谷で殺害された事件を覚えていらっしゃるでしょう。
容疑者としてネパールから働きに来ていた
ゴビンダ・プラサド・マイナリ被告が逮捕されましたが、
本人は容疑を否認しているし、
殺害を立証する直接の証拠もなく、
裁判は大きな注目を浴びてきました。

ところが、今年東京地裁は
ゴビンダ被告に無罪判決を言い渡し、
検察当局はこれに対し控訴しました。
ここから問題が出てきました。
普通の日本人の裁判なら一審無罪になれば、
釈放になるところですが、
ゴビンダ被告の場合は外国人のため、
釈放即不法滞在で国外退去になるわけです。
有り体に言えば自分の国に帰ることになるでしょう。
本人もそれを望んでいました。

しかし、検察当局は
帰国されると控訴審の裁判が出来なくなると見て、
東京高裁に職権による被告の
「拘置要請」を 求めたわけです。
しかし、木谷判事はこの要請を退け、
職権発動はしないとの決定を行ったんですね。
東京新聞の記事によると

「一審の無罪被告を拘置できるのは、
 控訴審で審理を遂げ、
 裁判所が有罪の心証を固めた後と考えられる」


木谷判事はこう述べたという。
ところが、控訴審を担当する
東京高裁刑事四部(高木俊夫裁判長)は
「審理前でも拘置できる」と逆の判断をして拘置を決定。
木谷判事の意見について
「傍論にすぎない」との見方を示していた。
また、高裁刑事五部の高橋省吾裁判長も
同じ理由で弁護団の異議申し立てを棄却している。

以上が東京新聞から得られた情報だ。
これを見るかぎり木谷判事の判断は
高裁の中で少数派で、
高裁の幹部も拘置決定に傾いているようだ。
しかも、同僚判事に自分の判断を
「傍論にすぎない」と斬って捨てられては、
木谷判事の腹の中は分りませんが、
煮えくり返るほどかもしれませんね。
もっとも、判事さんたるもの、
そんなに簡単に感情に動かされることはないのでしょうが、
やっぱり定年まで二年半を残しての
「依願退職」ですからねえ、
何かあったと思うのが自然だと思うんですが。

裁判所全体が
権力側に傾く傾向が強くなっていると言われている中での
今回の退職劇、真相は何か?
今日はとりあえずはここまでです。

「マイナリ被告側が 最高裁に特別抗告」
(毎日新聞26面)

これは続報です。
東京高裁が職権で被告を拘置したことを不服として、
弁護団は23日、最高裁に特別抗告した。
これでこの問題は
最終的に最高裁の判断に委ねられることになったが、
検察庁サイドが裁判所サイドに
猛烈なプレッシャーを掛けていると言われており、
まあ、このまま行くと、
最高裁でも棄却になるのは目に見えているようだ。

民主主義の基本は三権分立と言われるが、
現実には日本の司法は制度はあっても、
意外にも実態は力比べの様相が濃いようだ。
そのへんの実情を
くっきりと浮かび上がらせた今回の裁判でした。
でも、この裁判は最後まで見届けたいですね。
  
「復帰戦ストレート勝ち」
「マドリードオープン 女子複でナブラチロワ」


へえ、と24日の夕刊を開いて驚いた。
あのナブラチロアが帰ってきたのか。
テニス界の女王としてその名をほしいままにした
マルチナ・ナブラチロアが
スペインで開かれたマドリード・オープンに出場し、
ダブルスの一回戦でストレート勝ちした。
引退を表明してもう何年もなるのに、
今ごろ突然復帰とは一体何があったのか。
これはやっぱり驚きですよ。

現在のテニス界の女王は、あのマルチナ・ヒンギスだが、
私の不確かな知識によれば、
ヒンギスはナブラチロアの名前をとって
「マルチナ」とつけられたはずだ。
そのくらい時間が経過しているということだ。
因にナブラチロアは現在43歳だそうだ。

人間40歳過ぎてからが黄金時代だ、と言うのは私の持論。
「ゴールデン・フォーティーズ」と呼ぶ。
もっとも、私の場合、50歳になったときから宗旨を変え、
「ゴールデン・ヒフティーズ」と言い、
還暦を過ぎたころより、
いやいややっぱり「ゴールデン・シクスティーズ」と
主張しているのですが、体の方が言うことを聞かず、
「ヨレヨレ・シクスティーズ」
になってしまいました。

というところで、今日はお休みなさい。
ではまた明日、、、

2000-05-25-THU

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