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育児環境整わず女性医師復職に壁、産婦人科は特に深刻


「女性医師が働き続けるためには課題が多い」と語る井手さん

 深刻化する医師不足を解消しようと、国や大学病院が結婚・出産で離職した女性医師の復職支援に取り組んでいる。しかし、緊急呼び出しや当直がある産婦人科などへの希望者は少なく、病気の子供を預かる病児保育所の不足など育児環境が整わないこともあって効果は今一つだ。現場からは「就労環境の整備を急ぐべきだ」という声が上がっている。

 「今のままでは、よほど周囲の助けを受けられる人しか病院には残れませんよ」。九州大病院循環器内科助教の井手友美さん(38)は語る。井手さんは開業医の夫と長男(4)の3人家族。米国留学から帰国した34歳で出産し、産休は約2か月取ったが、育児休暇は「ほかの医師に迷惑をかける」と、あきらめた。

 自宅は北九州市。朝5時に起床して出勤し、子供をベビーシッターの元に迎えに行って帰宅するのは午後9時を回る。夕食を作って後片づけや洗濯を終え、床に就くのは午前0時過ぎだった。

 当直は月に4回。仮眠は入院患者の急変や救患があれば全く取れない日もある。それでも翌日は通常通り夜までの勤務だ。

 子供と接する時間が取れなかったこともあり、長男は2歳の時、少し情緒不安定になった。昨秋には自身も体調を崩した。今は夫を北九州に残し、長男を連れて福岡市の実家に身を寄せて病院に通勤している。

 米国留学までしながら出産を機に辞めた同僚もいる。「私の場合、周囲の助けがあったから何とか続けてこられたが、今の勤務体系では復職は難しい。医師の増員や院内保育所の設置など環境を改善しないまま復職を求めるのは酷」と、井手さんは強調する。

 女性医師が多い産婦人科は、特に深刻だ。

 日本産科婦人科学会が大学卒業後2〜16年の大学病院産婦人科医について2007年に実施した調査では、産婦人科を辞めた女性医師は九州で29%(全国平均14・5%)に上った。また、10年前後で半数の医師が自分の出産や育児のため分娩(ぶんべん)業務から離れていた。

 九州大病院産婦人科は、今月採用の9人のうち8人が女性だ。女性医師の復職支援を担当している樗木(ちしゃき)晶子・九州大大学院教授(54)は「女性が継続して働ける環境を作らなければ、医師不足はますます深刻化する」と心配する。

 こうした状況を受け、国は日本医師会と連携し、昨年1月に「女性医師バンク」をスタートさせた。復職を希望する女性医師に勤務条件が柔軟な病院や研修先を紹介している。今年2月末現在、1340件の求人に対し、278件の求職があった。しかし、就職が成立したのは全国で56件。産婦人科は2件だった。

 復職が難しい理由の一つとして挙げられるのが、育児環境。医師は、もともと不足しているうえ、患者を継続して担当しているため、自分の子供が病気になっても急に休みを取れない面があり、特に病児保育所の整備を求める声が強い。

 福岡県医師会の家守千鶴子理事(51)は「最近、病児保育所が整備されてきたが、預けられる時間が限られるなど使い勝手が悪く、復職の障害になっている」と話す。

 九州大病院は1月、復職を目指す女性医師を非常勤で雇用し、外来で現場に慣れてもらう独自の取り組みを始めた。しかし、比較的負担が少ない眼科や歯科に希望者が集中、麻酔科は1人、小児科は2人、産婦人科はゼロ。勤務条件の厳しい診療科には集まらない。

 福岡市の病院に勤務する女性医師は「産婦人科などは、医師を増やしてローテーション制にするなど待遇改善が必要だが、診療報酬引き下げで病院の経営は厳しく、人を増やす余裕がないのが実態」と指摘した。



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