「ふるさとは遠きにありて思ふもの…」。室生犀星の詩に共感を覚える人は多いだろう。故郷はぼんやりと思いをはせる存在だが、これからはいつも身近に感じられるようになるかもしれない。
出身地などに寄付をすると、居住地の税が安くなる「ふるさと納税制度」の開始に向け、自治体の準備が活発化している。岡山県は今月から東京や大阪などに受付窓口を設け、寄付を呼び掛けている。
ふるさと納税は、希望する都道府県や市町村に五千円を超える寄付をした場合、五千円を引いた額が居住地の住民税から控除される制度である。都市と地方の税収格差の是正を目的に国が導入を目指し、今国会で審議されている。成立すれば一月にさかのぼって適用される。
寄付の上限は年間住民税の一割程度になりそうだ。対象は生まれ故郷だけではない。転勤で住んだ土地や旅行先なども可能で、「恩返しをしたい」「活性化に貢献したい」という思いを託せる。
ただ地方にとって新たな収入源と喜んでばかりはいられない。居住者の地域外への寄付は税の流出になる。差し引きマイナスになれば、単なる税収減だけでなくイメージダウンにつながろう。
税収を増やすには、魅力ある地域づくりが求められる。ふるさと納税は、それが試される厳しい制度でもある。