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懐かしCM、大学DB化 脳の反応や大衆文化の軌跡探る

2008年04月05日15時15分

 テレビCMのデータベース(DB)を構築し、研究に利用する動きが進んでいる。DBを作りやすくなったことと、ウェブなどの新しい広告が増える中、歴史を持つテレビCMを文化として再評価しようという関係者らの思いが背景にある。戦後の大衆文化を探る貴重な資料になる。

 流れては消えていくCMを録画し保存するのは手間のかかる作業だ。まして古いCMを系統立てて見るのは至難の業。著作権や肖像権など権利が入り組んでいることもあって、文化としてのCMの研究はあまり進まなかった。

 それが最近、研究に役立てたいという大学など公的機関の求めにこたえて、制作会社や業界団体からCMのフィルムなどが貸与されたり寄贈されたりするケースが増えている。

 6日に東京で設立される「サイエンス映像学会」(養老孟司会長)は、サントリーのウイスキーやウーロン茶、ホンダの乗用車などを扱ったヒット作があるCM制作会社「21インコーポレーション」(東京都中央区)に協力を要請、同社のCM約4千点の映像素材をもとに研究することになった。

 同学会ではCMのDB構築とともに、脳科学者や社会学者ら異分野の研究者を募り、映像の分析を進める。

 学会の評議会議長で、日大大学院の林成之教授は「CMの映像や音に脳がどう反応するのか、商品を記憶したり購買に結びついたりするのかを解明したい。社会学の分野からもCMが社会や時代に与えた影響を分析するなど、専門部会で学際的な取り組みをしたい」と意欲を示す。

 同社は1964年に創業した老舗(しにせ)の制作会社のひとつだ。砂山純子会長は「流行や表現技術など、CMは時代の最先端を走ってきた。研究に役立てていただき、社員やCM制作に携わる者が、これだけ文化に貢献しているという誇りを持てるようにしたい」と話す。

 CMの著作権は、広告主と制作会社、広告会社の3者が持ち合い、さらにそこに音楽著作権や出演者の肖像権などが入り込むため、2次使用が簡単にできない仕組みになっている。この状況の中で、業界団体の全日本シーエム放送連盟(ACC)が、研究目的での協力をすることになった。

 国際日本文化研究センター(京都市)は、同連盟の協力で、ACC賞受賞作約4千点を収めたDBを02年に作った。翌年にはCM共同研究会を立ち上げ「日本の外タレCMの質的変化」「車への『まなざし』の変遷」などの研究をし、07年に「文化としてのテレビ・コマーシャル」を出版した。

 たとえば「外タレCM」の研究では、化粧品の宣伝をしたチャールズ・ブロンソンや洋酒のオーソン・ウェルズなど、映画界の大スターを起用したCMを対象にアンケートを実施。外国の俳優が商品のセールスをするという日本で独自に発展したCM文化について分析している。

 京都精華大はCM制作会社「TCJ」(東京都千代田区)から貸与された54年から68年にかけてのCM約9千点を中心としたDBを07年に作った。アニメ系の充実を特徴としている。立命館大(京都市)は、廃業した大阪の制作会社から寄贈された約3千点をもとにDBを構築中だ。

 一般に公開されているものもある。川崎市市民ミュージアムは、慶応大と共同で食品メーカー桃屋のアニメーションCM117点を編んだDBを構築した。このDBは広告主が1社で声の出演者も1人、音楽もオリジナルであったことから権利関係の処理が簡単だった。07年からはインターネットで閲覧(www.volumeone.jp/index.php)できるようになった。

 同ミュージアムの浜崎好治学芸員は「制作会社や広告主らの協力で研究の流れができてきた。CMの分野はまだまだ手つかずの状態で、研究者にとっては宝庫だ。一般の人も見られるCMデータベースがさらに増えることが望まれる」と話している。(徳山喜雄)

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