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見事な“富士山ビュー”も楽しめる舎人ライナーからの風景

　「とにかく眺めがいいんです」。東京都足立区の広報担当者に聞いて、乗車を決めた。東京の北東部を走る都営の新交通システム「日暮里・舎人（とねり）ライナー」。交通手段がバスに限られていた地域と都心を結ぶ、沿線住民「待望の足」で、天気がよければ高架の車窓から富士山が見える。３月３０日の開業初日は、曇りのち雨の空模様だったが７万３千人以上が利用。隅田川と荒川、二つの川を渡る２０分の路線を往復しながら、新しい路線への声を聞いた。【岡本同世】

　同ライナーは全長９．７キロ、日暮里駅（荒川区）から見沼代親水公園駅（足立区）までの１３駅。従来、道路混雑時にはバスで１時間以上かかっていた区間だ。新橋発の「ゆりかもめ」と同じく無人運転で、ゴムタイヤで軌道上を走行する。９７年に着工し、１０年かけて完成。沿線には荒川の河川敷や、都内最大規模のドッグラン（犬を放せる広場）を持つ舎人公園もあり、通勤・通学に加えて都心からのレジャー利用も期待されている。都は１日あたり５万１千人の乗客を見込む。

　舎人公園駅からの一番電車は午前５時４０分。５時過ぎには５０人を超える列ができていた。シャッターが開くと同時に切符売り場への階段を駆け上がる。「散歩のついでに」という６０代の近所の人や、始発に乗るために埼玉から父親と泊まりがけで来たという８歳の男の子もいる。「新しい電車に乗れてすっごいうれしい」と元気よく話した。

　ラッシュ並みに混雑する車内、高校生２人組が始発駅からの切符を誇らしげに見せてくれた。清水基広さん（１６）は１日乗車券、片寄航司さん（１６）は記念のための初乗り乗車券で、通し番号はそろって「０００１」。ともに足立区在住で幼稚園からの幼なじみだが、４月から清水さんが三重県の高校に通うため離れ離れになるという。夜明け前に２人で自転車を飛ばして１番乗りを勝ち取った。清水さんは「何よりの記念になりました」と笑った。

　最前列に座ると、視界の半分以上が空になる。両脇のフェンスが低く、電車のようなパンタグラフもないので、ジェットコースターに乗っているような感覚だ。日暮里から約７分、軌道は足立小台駅と扇大橋駅の間で荒川を渡り、首都高速道路をまたぐ。土手の向こうは大きなパノラマ。「４０年間都電の運転手をやってきた」という荒川区の杉山榮次郎さん（８１）は、地上３０メートルの見晴らしに「大したもんだ」と連発。運転席が無人と知って再び驚いていた。

　小雨が降り始めた午後、車椅子スペースにいたのは、足立区議会議員の市川おさとさん（４０）。車椅子を使う市川さんは、各駅のバリアフリー施設の使い勝手を自身で確かめた。結果は「素晴らしい」と太鼓判を押す。ホームと車両の床面の段差が少なく、障害の重さによっては乗降時の介助が不要という。地元の舎人公園もユニバーサルデザインに配慮して改良を続けているといい、「障害を持つ人や、高齢者の方にも来てもらいたい」と力がこもる。ちょうどライナーは同公園を通過。眼下に菜の花の黄色が鮮やかだった。

　舎人公園にはライナーの開通で“地殻変動”も起きた。線路の東側、車両基地を土で覆った標高１７メートルの“山”は今、足立区内で最も高い場所になった。斜面を生かして幅２４メートル、長さ５０メートル、最大斜度２０度のソリ遊びができるゲレンデも設置。新しい目玉として期待されている。

　都心に入ってくると、ビルの谷間を抜ける。５階くらいの高さで流れていく景色が新鮮だ。ぐっとスピードを落として大きく右にカーブすると、南側終点の日暮里駅。カメラを手にした女性（７２）に出会った。「主人に『便利になったのよ』って見せてあげようと思って」と涙ぐむ。「乗れるかなあ」と開通を楽しみにしていた夫は昨年、７９歳で亡くなったという。生前２人でよく行った見沼代親水公園の桜が見ごろの今、「ライナーを使って、もっと多くの人に見てほしい」と笑顔になった。

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　後日、眺望の真価を確かめようと、晴れた朝に再乗車して驚いた。路線の大部分が見事な“富士山ビュー”、青空に白さが映えてとても気持ちがいい。始発駅からの通勤時間が「半分になった」と喜ぶ女性は「こんなにいい眺めなら通勤も楽しくなりそう」。富士山は、日暮里からの下りならば赤土小学校駅を過ぎたあたりから左側に、上りは始発の見沼代親水公園駅から右側に見える。乗車券は１６０円から３２０円。１日乗車券７００円もある（いずれも大人の値段）。