相次ぐETF上場で投資家の選択肢拡大、残高増には時間必要の見方

2008年 04月 4日 18:03 JST
 
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 [東京 4日 ロイター] 上場投資信託(ETF)の品揃えが拡大している。3月だけで21本のETFが東京証券取引所に上場したほか、先週には東証の斉藤惇社長が今後3年でETFを3倍に増やす計画を発表しており、機関投資家や個人投資家にとって分散投資の選択肢が広がりそうだ。

 一般的な投信に比べ低コストでリアルタイムの売買が可能なETFは欧米で急成長しており、日本でも拡大余地は大きいとみられる。ただ、機関投資家を呼び込むには「流動性の確保が課題」(邦銀)との声や「銀行の窓販解禁を機に個人投資家に急速に浸透した公募投信のような爆発的成長は期待できない」(投信コンサルタントの田村威氏)との指摘もあり、残高の拡大にはなお時間がかかるとの見方が多い。 

 <ETF多様化への流れ>

 東証と大阪証券取引所に上場している国内ETFは合計40本。規制緩和などを背景に07年度に25本増加した。昨年から取り組みを強化している野村アセットマネジメントが3月に、東証株価指数を業種別に分けたTOPIX─17株価指数に連動するETFを一挙に17本上場したほか、日興アセットマネジメントが3月だけで4本のETFを上場し、足元でラインアップが急速に広がっている。

 今月も日興アセットが中国A株市場連動型ETFを上場するほか、大和証券投資信託委託も「

TOPIX─17連動型を含め様々なETFの設定を検討している」(広報担当者)。さらに、米ステート・ストリート(STT.N: 株価, 企業情報, レポート)が金価格連動型ETFを、仏アクサ・インベストメント・マネジャーズが商品連動型のETFを東証に上場する準備を進めている。金融庁は昨年末に発表した「金融・資本市場競争力強化プラン」でETFの多様化に向けた法整備を進める方針を示しており、「今後は海外株価指数に連動するタイプが増え、債券や商品に連動するETFも登場することが期待される」(松尾琢己・東証上場部商品企画担当課長)という。

 <流動性が課題>

 ETFを提供する金融機関側は投資家ニーズが大きいとみるが、市場の拡大には課題もある。業種別ETFの上場に関わった野村証券投資戦略マーケティング部ストラテジー・コンサルティング一課の松田直之課長代理によると「業種別ETFの開発はもともと機関投資家のニーズを踏まえてスタートした」。ETFは機動性が高く、空売りなども可能で「投資家がマーケットリスクを排除して業種間の強弱をとっていける」(松田氏)ほか、金融法人が投資制限などで個別株に投資できない場合もETFを通じて特定業種への投資が可能で使い勝手がいいという。

 日興アセットも「低コストで透明性が高く、リアルタイムで取り引きできることが個人にも機関投資家にもメリットで、様々な使い方が考えられる」(有賀潤一郎・商品企画部副部長)とみる。既存の日本株ETFは「世界に分散投資する海外の運用会社が先物代わりに使っている」(有賀氏)例もあり、今後は新興国の株価連動型ETFなどを提供し、海外に分散する投資ツールとして国内投資家の需要を掘り起こす考え。

 投資家サイドからは「業種別ETFは使いたい」(国内大手生保の資産運用担当者)との指摘や「水など特定のテーマに注目した指数に連動するものなら興味はある」(邦銀)との声もあるが、「機関投資家にとっては流動性の高さと低コストが重要で、両方の条件が揃わなければ使わない」(大手邦銀の株式投資部長)と慎重な向きもあり、今後は流動性の確保が課題となる。

 また、個人は一般的な投信と違ってどこの証券会社でもETFを売買できるが「証券会社はETFより手数料が高い公募投信の販売に注力しており、ETFを積極的に勧めない」(業界関係者)のがボトルネック。運用会社も「当面はネット証券経由の売買が中心になる見通しで、すそ野の拡大には啓蒙活動が必要」(日興・有賀氏)と認識している。ただ、「分配型の公募投信を好む高齢者層がETFに飛びつくとは考えにくく、個人に浸透するには時間がかかる」(外資系運用会社)との見方が優勢だ。

 <外国籍ETFとの競争>

 海外のETF市場は2000年以降、年率5割近いペースで拡大している。モルガン・スタンレーによると、07年末時点で世界の取引所には1171本のETFが上場しており、残高は前年比約41%増の7966億ドル(約81兆6037万円)。日本は残高が微減となったが、米国や欧州は4割以上増えた。同社は2011年には世界のETF残高が2兆ドルを超えると予想している。

 ETF運用で世界トップのバークレイズ・グローバル・インベスターズ(BGI)は、日本でも市場の成長余地が大きいとみて昨年から事業強化に乗り出した。世界で321本のETFを上場している同社は昨年、海外の債券や株式などの指数に連動する約50本の外国籍ETFを金融庁に届け出し、国内の品揃えを60本以上に拡大した。

 「ETFを組み合わせることで簡単にグローバル分散投資ができるため、年金基金を含め国内機関投資家のニーズは大きい」(BGI日本法人の関塚健太郎・iシェアーズ営業総責任者)とみて、今後も追加投入するほか、顧客サポート向上のため、ETFに関わる人員を3倍に増やす。

 国内の取引所にETFを重複上場するかどうかについては未定。同社によると、07年の米国株式全売買代金のうちETFが24%を占めるなど海外の流動性は高く、「国内投資家も流動性が最大の市場で売買したいと望んでいる」(関塚氏)とみている。ただ、国内上場していれば「円建てで日中に売買できるため日本の投資家にとってETFがより身近になる」(アクサ)との見方もあり、今後の投資家の動向が注目される。

 (ロイター日本語ニュース  大林 優香)

 
 

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