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2007/8/29
■資料3:「TUTAYAとGEOの比較」

今回のポイントは、一見同じようなレンタル事業を展開しているようにみえる両社が、実はまっ
たく異なる事業を行っているということである。企業の本質的な強みは、企業の発展の歴史や
財務構造を丁寧にひもとかないと見えてこない。今回は、それに挑戦してみたい。

■レンタル市場は、2社の寡占状態

レンタル市場は90年代前半に急速に発展したものの、現在は成熟期を迎えており、TSUTAYA
とGEOの2強による寡占状況が強まっている。

このようにGEOとTSUTAYAの寡占化が進んだ背景には、レンタルのメディアが、ビデオから
DVDへシフトしたという現象がある。もともとレンタルがビデオ中心の時代には、中小規模のレ
ンタル小売業者が全国に乱立していた。しかし、ソフトがDVDに切り替わる際に多額の設備投
資が必要になったため、資本力のないこれら の中小事業主は追加投資に耐えられず、名古
屋の会社で財務体力のあったGEOにどんどん飲み込まれていったのである。一方の
TSUTAYAは、POSシステムや顧客管理システムに強く、これらを武器にフランチャイズ店舗を
どんどん拡大して大きくなってきた。





■TSUTAYAとGEOの店舗と会員数

GEOとTSUTAYAの店舗数を見ると、TSUTAYAが約1300店舗、GEOは900店舗ほどである
(2006年3月時点)。店舗の分布状況を見ると、GEOは地方にも広く進出しているが、TSUTAYA
は都市圏中心に展開している。

 両社とも拡大路線をとっているが、TSUTAYAがフランチャイズ店舗の増加を目指しているの
に対し、ゲオはリストラ店舗の買収やM&Aを中心に行っている。後述するが、これは両社の根
本的な強みに関係した戦略の違いである。

 店舗の会員数は、GEOの830万人に対し、TSUTAYAは1930万人と約2倍。店舗数÷会員数
で計算すると、1店舗あたりの会員数はGEOが9400人に対し、TSUTAYAは1万5000人。店舗効
率は格段にTSUTAYAが高いといえるが、これは店舗が都市部に集中しているためである。ま
た、両社ともオンラインの映像ソフト提供を行っているが、GEOの107万人に対し、TSUTAYAは
1000万人で10倍近いオンライン会員を抱えている。


■財務諸表から何が分かるのか?

では、次にTSUTAYAとGEOの財務状況を見てみよう。

 



TSUTAYAとGEOのP/L(損益計算書)。
まずは、P/L(損益計算書)から見てみたい。売上や営業利益を見ると両社とも伸びはそれほ
ど変わらないと分かる。なお、2007年にTSUTAYAの売上が落ちているのは、収益性の低い関
連会社を連結から外したためだ。

 純利益を見ると、2006年にはTSUTAYAが大幅な赤字になっているのが分かる。営業利益が
出ていて純利益が赤字ということは、特別損失が発生しているということである。その正体は、
買収にかかる「のれん」のコストである。

 TSUTAYAは、一体、何のためにどんな買収を行ったのだろうか? その答えは少し先に述
べるとして、次にB/S(貸借対照表)を見てみたい。

 
TSUTAYAとGEOのB/S(賃貸対照表)。
両社のB/Sを比較すると、事業構造の違いがより明らかになる。総資産の内訳を見ると、両
社の資産規模を大きく分けているのは、有形固定資産やその他固定資産の違いだと気付く。
有形固定資産は、店舗などの土地・建物が大部分だが、これは圧倒的にGEOが大きい。なぜ
ならばGEOは直営店で事業展開を行っているからだ。TSUTAYAはフランチャイズ展開をしてい
るため、自社で持っている固定資産は少ないのである。

 また、GEOは店舗展開の原資を借り入れでまかなっているということが、長期有利子負債の
額を見れば分かる。一方のTSUTAYAの長期借入金は自己資本の1/4程度である。

 他にB/Sをみていて気づく点としては、売上債権の差がある。

 GEOに比較してTSUTAYAは売上債権が大きい。レンタル事業は基本的に現金商売だから、
売上債権があるということは、法人、つまりフランチャイズ加盟店に対するものであると分か
る。つまり、GEOは直営店のため固定資産が大きくなるが、TSUTAYAはフランチャイズ展開の
ため売掛金のような運転資本が発生する構造だということだ。

 その他、小さな違いだが、TSUTAYAには無形固定資産や投資等といった資産がGEOよりも
多い点にも注意が必要だ。これはソフトウェアや子会社株式を指し、TSUTAYAがIT投資を積
極的に行っていることが分かる。

 B/Sを見ながら事業構造の違いに着目することができるようになればしめたもの。次にキャッ
シュフローを見てみよう。


■共に投資期にある両社。何に投資している?

キャッシュフローを見るときには、以前も述べた通り、縦軸に投資キャッシュフロー、横軸に営
業キャッシュフローを取ってみるとよい


TSUTAYAとGEOのキャッシュフローマトリクス。クリックすると全体を表示 GEOとTSUTAYAの
キャッシュフローを見てみると、両社ともフリーキャッシュフローはマイナスの年が多いことが分
かる。つまり、投資期にあるということだ。

 レンタル産業が成熟期を迎える中、両社は一体、何に投資をしているのだろうか?

 TSUTAYAから見ていこう。キャッシュフローマトリクスを見るとTSUTAYAは昨年、大幅な投資
をしたということが分かるが、そのほとんどがM&A費用である。有価証券報告書で確認する
と、総額135億を3社の買収に充てている(アイエムジェイ、デジタルスケープ、デジタルハリウッ
ド)。その他、レントラックジャパンという会社も買収しているが、こちらは株式交換によるもの
で、キャッシュには影響を与えていない。

 P/Lの時にみた、TSUTAYAの特別損失の「のれん」の償却の中身は実はこれらのM&A費
用だったということが分かる。その効果あってか、2007年のTSUTAYAの営業キャッシュフロ
ー、つまり稼ぎは大幅に好転し、倍近くになっている。

 一方のGEOは、投資キャッシュフローの額は毎年それほど変わらないものの、2007年の営
業キャッシュフローが大幅なマイナスになっている。GEOの売上自体は伸びているが事業収益
性は低下傾向にあることが分かる。

 GEOはどのような問題を抱えているのだろうか? そしてTSUTAYAはどのような方向性で事
業を発展させようとしているのだろうか? 両社の将来の戦略については、次回考察したい。


■財務分析で“ビジネスの結果”が分かる

 いかがだっただろうか? 今回のポイントは、財務数値の分析だった。

 財務分析というと、利益率や回転率といった難しい数値をこねくり回すという印象があるかも
しれないが、実は違う。財務の数字は、あくまでも「結果」。結果をもとに、「原因」つまりビジネ
スが実際にどのようになっているかを知ることが、財務分析の本来の目的である。

 このような財務分析力を付けるコツは2つある。1つは、財務数値という結果がどのような背
景から生まれているのかを、自分の頭で考えるということだ。「なぜ、利益率が下がっているの
だろうか?」「なぜ、固定資産が大きいのだろうか?」――こういった現象の背景にある原因を
ひとつひとつ自分の頭で考えることによって、本物の財務分析力が身に付いてくる。

 もう1つのコツは、何度も何度も繰り返し分析を行ってみることである。私自身は、M&Aファ
ームの在職中、毎日の通勤の行きと帰りに、1社ずつ有価証券報告書を読んでいたことがあ
る。だいたい6カ月間で100社もの企業を見れば、おのずと財務諸表の勘所は分かってくるは
ずだ。

 今日、紹介した財務分析は、「企業分析セミナー(動画)」で詳しく説明している。本気で投資
を学びたい人向けの内容になっているので、チャレンジしてみてほしい(参照リンク)。

 最後に。くどいようだが投資とは、株を買うことではなく、企業を買うことだ。その意味で短期
の株価を予測するのではなく、長期の企業価値がどのように向上してゆくのかを見極めること
が必要だ。企業分析の道は険しいが、学べば学んだだけ成果があることは保証する。ぜひ時
間をかけてチャレンジしてほしい。



続・TSUTAYAとGEO、レンタルショップ対決
――注力するのはハードかソフトか

■レンタル事業のビジネスシステムとは?


ここではTSUTAYAとGEOを、「ビジネスシステム分析」という手法で分析してみたい。

 ビジネスシステム分析とは、事業の流れを機能ごとに分解して、それぞれの機能がどのよう
な状態に なっているのかを把握する方法である。機能毎の弱点や強みを把握することで、事
業の問題を発見したり、戦略立案に生かすときに有効なやり方だ。

 レンタル事業のビジネスシステムは、まずお金を調達する「財務戦略」、次いで、店舗を開発
する「店舗展開」、その後は、「運営管理」「販売・マーケティング」「顧客管理」とつながってゆ
く。ではこのビジネスシステムごとにGEO・TSUTAYAの状況を把握してみよう。

 まず一番最初の機能である「財務戦略」については、GEOが借り入れをメインに資金を調達
している のに対し、TSUTAYAは株主からのお金、つまり増資を主体にお金を調達していること
が分かっている。

 次の「店舗展開」については、前回も出てきたように、GEOは直営店主体で地方店舗のM&A
を繰り返して店舗数を拡大してきたことが分かっている。一方のTSUTAYAは、フランチャイズ
を中心に自社店舗も賃貸が中心である。

 店舗の「運営管理」については、TSUTAYAが一枚上手のようだ。早くから商品POSシステム
を導入し、フランチャイズ店を効率的に管理してきた。GEOの方は、店舗買収によって拡大して
きた過去から、運営はそれぞれの店舗が主体となっているが、近年はTSUTAYAと同様の商品
管理システムを導入し効率化を図りつつある。

 では、マーケティングや販売戦略はどうだろうか?

 TSUTAYAは、店舗別に、オススメ商品を紹介するなど、レコメンド(紹介)機能を強化するとと
もに、 Tポイントシステムを中心に、30社以上とアライアンスを組んでいる。GEOの方は、レンタ
ル/新品/中古品を取り揃える「マルチサプライ」複合ショップを展開している 。またGEOはス
ケールメリットを武器に安く消費者に提供することを戦略の中心に置いている。

 最後の顧客マネジメントについては、TSUTAYAはポイントシステム「Tポイント」を中心に、ネ
ット会員も含め、顧客基盤の拡大に力を入れている。一方、GEOのオンラインの会員数は、
TSUTAYAの10分の1に満たないことが分かっている。







このように見てみると、両社の大きなビジネス展開の違いに気づかないだろうか? 実は、ビ
ジネスシステムの機能で言えば、左側、つまり店舗展開などに強く、TSUTAYAは、右側、つま
り販売・マーケティングや顧客管理を強みにしているのである。より具体的にいうならば、GEO
のビジネスの強みは不動産業であり、地方の零細店舗の買収で出店コストを抑えオペレーショ
ンを標準化して収益を拡大してきたのである。

 一方のTSUTAYAは会員の獲得が企業価値の基盤であると考えて、お金のかかる直営展開
ではなく首都圏び一等地に出店し自らのブランド価値を高めFCを促進、Tポイントで他企業を
巻き込み会員数を増やしてきたというわけだ。

 不動産業と顧客マネジメント。両社は、同じレンタル事業を行っているように見えて、その実、
中身はまったく異なる方向を向いているのだ。

 GEOにとっては、店舗や不動産を多く抱えることが競争力につながっている。しかし、
TSUTAYAにとっては店舗自身はそれほどの意味を持たない。TSUTAYAにとって重要なのは
「顧客」であり、それはネットでもぜんぜんかまわない。だから、自社での出店は、渋谷駅前の
旗艦店など自らのブランドを高めるためのものにとどめ、あとはフランチャイズで顧客にリーチ
しようというのだ。

 これで、GEOとTSUTAYAの違いの背景がつながっただろうか? それぞれの戦略の違いが
ビジネスシステムや財務諸表に明確に現れており、両社はそれぞれ、一貫した方針を持って
いるということがわかるのだ。


■財務分析とビジネス分析の関係

最後に、財務分析とビジネスシステム分析の関係をまとめておこう。下の図を御覧いただきた
い。






これはビジネスシステムのそれぞれの機能とその実態が財務の結果としてどのような指標に
表されるのかをあらわしたものである。○が付いている部分が関係があるところである。

 この図は、ある学習塾の財務分析とビジネスシステムを表したものだが、ビジネスシステム
は、左側に行くほどB/S(貸借対照表)との関係が深く、右に行くほどP/L(損益計算書)との
関係が強くなっている。

 この学習塾の場合、フランチャイズのマネジメントや教材・講師調達の効率化によって運転
資本回転率が向上していることと、売上の増加が財務の結果に大きな影響を与えていること
が分かる。

 そうすると、この会社の強みは、設備投資などではなく、運転資本のマネジメントにあるという
ことがわかる。

 前回のコラムでも書いたように、財務分析とは数値をこねくり回すことではない。その原因で
あるビジネスの状態を探るためのものである。我々は、目に見える現象面に目を奪われがち
だが外から見える各々の現象はそれぞれが独立して存在しているわけではない。すべては裏
側で有機的に結びついている。そのリンクの全容が明らかになった時点でようやく企業を理解
したといえるのだと思う。

 ちなみにここまでの情報は、すべて財務諸表やWebサイトに掲載されているプレスリリース資
料のみで行ったものであり、入手できる情報は、一般に公開されているものである.

 公開されているオフィシャルな情報だけでも、さまざまなことが分かる。企業を動かしている決
定的な要因、メカニズムを突き止めてみたらどうだろう? すべての現象が1つにつながったと
き、企業分析がとても面白く感じるはずである。






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