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未来育て:第1部・男と少子化/1 「育児休業?前例ないだろう」「やる気あるのか」

仕事の合間に公園で子どもたちと遊ぶ元運輸会社社員の男性=兵庫県で
仕事の合間に公園で子どもたちと遊ぶ元運輸会社社員の男性=兵庫県で

 未来をいっぱい持ち、未来を担う子どもたち。だが、出生率は多少の上下はあっても、低水準のままだ。日本人が子どもを欲しがらなくなったわけではない。阻んでいるものは何か、欠けているものは何か--。「男の働き方」を手始めに、シリーズで追う。

 ◇罵声、報復人事…企業社会で煙たがられ

 「男で育休を取るつもりか。前例はないだろう? まあ無理だな」。兵庫県の元運輸会社社員の男性(38)は03年末、上司の人事課長に育児休業を願い出たが、却下された。当時長女は1歳。妻(37)は病気で、選択肢は限られていた。

 会社の従業員は約500人で、創業は大正。女性でも育休を取りにくく、古い会社だと思っていた。そんな風土に風穴を開けたい、という思惑もあった。

 3カ月後、この課長から突然、人事異動を告げられた。異動先は会社が事業の委託を受けている接客関係の職場。勤務時間が不規則で、「明らかに報復人事だった」。

 自分を買ってくれていた幹部が交代したことも響いた。「あいつはうるさいやつだ」との評価になっていたことは気付いていた。

 新しい職場は早朝出勤も多く、子どもを市内の実家に預けてしのぐ日々が続いた。だんだんと追い詰められる日常に憤りが募り、「働き方を変えるしかない」と決意した。

 退職は05年2月。「会社勤めはまた同じ目に遭う」と思い、自営業(保険代理店)を選んだ。ファイナンシャルプランナーの資格も取ったが、顧客開拓は容易ではない。収入は3割ほど減った。

 それでも、勤務時間の融通が利き、仕事と育児の両立が可能になったメリットの方が大きかった。昨年には、長男も生まれた。

 退職後、元同僚から異動はやはり報復的なものと示唆された。男性は「男の育休は、『男は仕事、女は家庭』との考えが強い地方では煙たがられるだけ」と話す。

    *

 煙たがられるのは、都市部でも同様だ。

 大阪府の会社員、伊東孝さん(39)は06年に育休の取得を申請した時の上司の罵声(ばせい)が、今も記憶から消えない。「やる気があるのか」「出世する気はないんだな」

 まるで「落後者」扱いだった。妻(35)が長女の出産と同時に外資系企業を解雇されたため、育児を任せることも確かにできた。だが、「育休は会社人間の自分を振り返るチャンス」と考えていた。結局、06年5月から12月まで育休を取った。同僚らが大賛成してくれたことが救いだった。

 会社は清掃関係などを広く手がけるサービス業の大手。育休中、給与が半分以下に減ったのは大きな負担で、預金がなければ不可能だった。復帰後、不利益な扱いは見られないが、伊東さんは「『男性の育児』がブームだが、企業社会の中は別」と振り返る。

 企業風土を見越し先手を打ったのが、東京都の大手金融業の男性会社員(38)だ。

 「育休後もフルに働けないが、浮いた人件費でアルバイトの確保を」「育休を理由に評価を下げたり、ボーナスをカットしないでほしい」--。

 男性は先月、育休申請とともに処遇要望書を会社に出した。育休後に復帰した女性社員が、ボーナスが不当に減らされ、上司に抗議したところ「同僚への迷惑料だ」と逆ギレされたケースが記憶にあったからだ。

 上司は「不利益なことはしない」と明言したが、「世間で(男性の育休が)言われても(社内には)異論もある」とも漏らした。

 育休は来月から来年2月まで。社内初だ。男性は「不安で仕方ないが取ってみるしかない」と語る。【中西拓司】=次回は12日掲載

 ◇休まない理由「他人の迷惑」半数超--人事院調査

 政府は、男性の育休取得率(05年度0・5%)を14年度までに10%に引き上げることを目標に掲げるが、実現の見通しは薄い。

 人事院の2月の調査で、育休を取得しなかった国家公務員の男性にその理由を聞いたところ、「他人の迷惑になる」が52・6%で最多。「収入が減る」(47%)、「代替要員がいない」(17・5%)などが続いた。

 育休中は、雇用保険から基本給付金などが支給されるが、額は休業前の月給の50%(07年3月30日以前の職場復帰は40%)。「収入の壁」も育休を阻む要因になっている。

 第一生命経済研究所の松田茂樹主任研究員は「現行制度は1人の子どもに育休が1回しか取得できず融通性に欠ける。分割取得を可能にするなど、もっと使いやすい制度にすべきだ」と指摘する。

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 ■先進諸国の合計特殊出生率

日本     1.32

アメリカ   2.10

フランス   1.98

スウェーデン 1.85

イギリス   1.84

イタリア   1.35

ドイツ    1.33

 ※フランスは07年、それ以外は06年。合計特殊出生率は1人の女性が一生に産む子どもの数に相当

毎日新聞 2008年4月5日 東京朝刊

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