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Road to CEO

アップルの改革は「パソコンが欲しい人を狙わない」こと

〜日本マクドナルド 会長兼社長 原田泳幸氏(2)

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 職業としての「社長」を自ら選び、活躍している人をお招きし、将来、経営層を目指す人々に、ご自身の経験を語って頂くトークセッション「Road to CEO」。今回は、マクドナルドの原田泳幸氏をゲストに迎えた。日本NCRにエンジニアとして入社、以後、横河ヒューレットパッカード、フランス系のシュルンベルジェグループと一貫してエンジニア畑を歩み続けた。同グループで日本法人立ち上げの仕事に関わったため、経営全般も手がけるようになり、それがきっかけで、アップルに招かれ、1997年に社長に就任している。

 今回は暫定CEOのスティーブ・ジョブズとともに改革の大鉈を振るった時代について語っていただこう。

(司会はリクルートエグゼクティブエージェントの井上和幸氏が担当。このインタビューは昨年行われたものです)

日本マクドナルド原田会長兼社長

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司会、井上(以下I) ご縁があってアップルに入られた。どんなふうにお話があったのでしょう。

原田 いや、たまたまヘッドハンターから。

I 声が掛かった?

原田 ええ。マーケティングの責任者で入ったのがちょうど40歳です。

I 1990年ですね。ちょうどWindows3.0が出た年ですけど、アップル社内に、何かざわめきみたいなものはあったんでしょうか。

原田 1990年の出荷台数は5万5000台ですよ。日本語版のアプリケーションが100本もない時代だった。早速、私がおこなったのがソフトの数を増やすことで、アメリカで世界中のソフト会社を集めた。日本のマーケットのチャンスを語って、日本人のパートナーを探して、日本語化していく、これで一気に1500本に持っていくと。

 いろいろなことをやりましたけれど、1995年にWindowsが出てきたときに、「Windowsにやられた」とマスコミは言っていました。しかし、私は(アップルは)自滅したと思っています。一番大きな原因は販売店政策だったと思います。

I そうだったんですか。

原田 はい。経団連の記者発表に行ってお話ししたのが、「外的要因で業績不振になったんじゃない、アップルがアップルらしさを忘れたんだ。それと、経営資源の戦略的な配分を間違えた。この2つで必ず業績を回復する」という話をして、次の年にiMacを発表する。それまでに相当、販売店のインフラの改革をおこなったり、サプライチェーンのインフラを整えていたから、大成功した。その連続がiPodにつながったわけです。

I 一方で、90年代前半で私も非常に印象に残っているのが、「Mac何々」という雑誌がいろいろ出てきていて、マーケティング的にはかなりフィーチャーされていたように思うんですけど。

原田 Macintoshも雑誌が少なかったですから。雑誌が多ければMacも売れる、Macintoshが売れれば雑誌も売れるということです。それをプラスに持っていくためにずいぶん働き掛けました。、社長になった直後、1997年ですか、そのときには雑誌を15誌まで増やしていました。

I かなりありましたよね。構造上、そういうチャンネルがすごく有効ということで、仕掛けていたということですか。

原田 どういう改革をしてきたかというと、40社以上あった1次卸店を4社に減らして、3000店舗以上あった販売店を100店舗に減らしました。これはとんでもない改革ですよ。

 雑誌を増やしたこともそうですし、ソフトの数を増やしたこともそうですし、販売店インフラのリストラをやったのもそうですが、限りなく経営資源をお客さんのために使うということですね。販売店にお金をあげても、店が多過ぎれば、ディスカウント競争をやってそこで消えるわけです。従って、販売店のマージンを少なくして、その分、お客さんのためにフリーセールス、ポストセールスにお金を使う、そのようにシフトをしていった。

I 戦略として非常に分かりやすく、一番ど真ん中だと思うんですが、結構、反発も含めて大変だったんじゃないですか。

原田 それは大変でした。脅迫状も来れば、ここでは言えないこともたくさんありました。ただ、やらなかったらみんな死ぬんです。何もやらずに敗北者になることは意味がないわけですから、そこは温かい心を持って大改革をやらないといかんわけですよ。

14万人の大組織を1日で改編

原田 構造改革は中途半端ではよくない。徹底してやる。それも短期にやるということですね。だらだらやったらモラルハザードになるだけ。

I そこが原田さんの成功してこられた1つの要因でしょうね。英断、スピード、思い切りのよさ、分かりやすい軸みたいなもの、この後のマクドナルドについても感じるんですけれども。

原田 マクドナルドには2004年2月に入社しました。1カ月間アメリカへ行っていて、その後5月12日に全国5000人の社員、プラス13万5000人のクルーがいる大組織を私1人で考えて、1日で組織を変えた。

 普通の人でしたら社員の顔をよく知り、ビジネスをちゃんと把握してから、ゆっくり改革を行うと思います。ただ、7年連続売り上げがマイナスのときにそんなことをやっていては、あと1年また売り上げが下がるわけですよ。やらなかったら今年もマイナスが見えるわけです。そういうときは論理じゃないんです。まず空気を変えることです。社員が、「うちの会社はどうなるの、私たちはどこへ行けばいいの」と迷っているときは、間違えても「こっちへ行くんだ」と言わなきゃいけない。

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このコラムについて

Road to CEO

この「Road to CEO」は、昇格や継承ではなく、自らの職業として「社長」を選び、活躍している方を招いて、将来経営層を目指す人材を前に自らの経験を語って頂くトークセッション。今求められている経営者としての技術を、生の会話の中からつかんでいただきたい。この企画と運営には、経営層に特化した人材紹介サービスを展開しているリクルートエグゼクティブエージェントの協力を得た。(写真:大槻 純一)

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著者プロフィール

山中 浩之(やまなか・ひろゆき)

日経ビジネス、日経クリック、日経パソコン編集などを経て、2006年2月から日経ビジネスオンライン副編集長

ビジネス マネジメント フォーラム
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