◎まちバス時間延長 夜のにぎわい創出の一助に
金沢市中心部とJR金沢駅を結ぶ「まちバス」の運行時間の延長を、金沢の都心軸の夜
のにぎわい創出の一助にしたい。五日から始まる今年度の運行は、これまでより増便され、従来より五時間長い午後九時半まで延長される。安価な「足」が確保されることで時間に余裕ができ、より多くの人が中心部で行われる夜間の大型イベントや、片町や香林坊の繁華街をゆっくり楽しめるようになると期待できよう。
市内中心部は、夜間の人出という点で言えば、車でのアクセスが容易な郊外の大型店舗
に客足をとられる傾向が近年目立ち、夜の集客力が大きな課題となっている。こうした中で、来年春に全面オープンする近江町市場再開発ビルは、二階の飲食街が午後十一時まで営業する予定であり、これまでオフィス街のイメージが強かった武蔵地区の夜のにぎわいにつなげたいという地元の思いも強い。それを後押しする意味でも、まちバスの延長運行は心強いだろう。
まちバスは昨年度、商業者らによる実行委員会が事業主体となり、市の助成を受けて、
土日祝日の計五十五日間、運賃無料で運行された。駅から中心部へダイレクトに運ぶ分かりやすさもあって、県外客からも好評で、予想を超える四万五千人の利用者があり、今年度は、運賃百円で、土日祝日の通年運行となる。
市では、まちバスを二〇一〇年度に導入する新バスシステム「まちなかシャトル」の運
行実験とも位置づけており、新幹線開業を見据え、まちなかに人の流れを作る基幹交通網に発展させるという意味で、夜間を含めた運行の質、量の拡大による利用者ニーズの把握が重要になってくる。
市内バス路線の多くを運行する北陸鉄道には、今回の運行延長により「二重運賃」が生
じることに懸念もあるようだが、これまで実施されてきた交通実験でも分かる通り、低料金によるまちなかの公共交通の活性化は、企業にとっても利用者にとっても有益であろう。長年培った運行のノウハウを生かし、金沢市や商業者と手を携えて、公共交通の発展に取り組んでもらいたい。
◎「長寿」に名称変更 思いやりが感じられない
年度が改まれば制度も変わり、暮らしに影響するのが例年のこととは言え、今年度は政
治の混乱によるドタバタが過ぎないか。七十五歳以上を対象とした「後期高齢者医療制度」がスタート後、名称がよくないとして「長寿医療制度」なる呼び名が唐突に浮上したのは、政府の場当たり的対応を象徴して見苦しい。
高齢者対象の新たな医療保険をつくるに際して適当な名称が思い浮かばず、役所内部で
使われる「前期」「後期」という年齢による区別を用いたようだが、いかにも安易で、形式ばった「お役所言葉」の典型である。名称がどのように受け止められるか想像力が働かず、しかも制度の周知不徹底とあれば、二重の意味で思いやりに欠けていたと言わざるを得ない。
石川県内では市町や県後期高齢者医療広域連合などの窓口に四月だけでも約五千件の問
い合わせが寄せられた。先月、対象者に保険証が送付されて新制度に気づいた人もいるようだが、制度が変わることの漠たる不安や名称への違和感、誤解なども重なり、不満が一気に表面化したとみられる。
新制度は小泉純一郎政権の時代に創設が決まった。七十五歳以上の高齢者から保険料を
徴収し、現役世代とは異なるルールの下で膨れ上がる医療費を抑制するのが狙いである。世界で最も高齢化が進む日本にとって、高齢者を別建てとする医療保険は壮大な実験でもある。
本来ならそれにふさわしい周到な準備が必要だったが、これまでは新たに保険料を納め
る人の支払いを半年間凍結するなど批判をかわすことに汲々としていた印象も受ける。問い合わせが殺到している以上、政府は周知徹底を図るとともに、改善点があれば修正する柔軟さも求められよう。
民主党は新制度で保険料が年金から天引きされる日を「4・15ショック」と命名し、
再び世論を味方につけて政府・与党を追い込む構えだが、それに過剰反応して政府が浮き足立っていては混乱は広がるばかりだ。制度が既に動き出したことを重視し、与野党には不安を和らげる冷静な議論を望みたい。