医療をめぐるトラブルが増えている。社会問題化している産科医師の不足も、他の診療科と比べて訴訟になる割合の高いことが一因になっている。
そうした中で、厚生労働省は患者が医療関連で死亡した事故の原因究明に当たる第三者組織「医療安全調査委員会(仮称)」の創設を目指す最終原案をまとめた。警察は遺族から相談を持ち掛けられても直接受け付けず、新組織に調査を依頼するよう勧める「窓口の一本化」を徹底する内容である。
厚労省は、国民からの意見を募集した上で、法案を今国会に提出する方針である。気になるのは患者への視点が不十分なことだ。遺族と病院との対話不足がトラブルの原因になることもある。遺族側にもしっかり目を向けた防止策が求められる。新組織の在り方について、国会でさらに議論する必要があろう。
新組織は、国土交通省の「航空・鉄道事故調査委員会」になぞらえ、「医療事故調」とも呼ばれている。複数の医師や法律家や患者側代表の有識者らで構成。医療機関や遺族から調査依頼があると、調査チームを編成して、解剖や関係者からの聞き取りなどで事故原因を明らかにする。
これまで刑事、民事裁判に委ねられていた原因解明を専門家が担うことで、再発防止に役立てるのが狙いだ。
原案では、医療機関が届け出る範囲を、医療ミスが明らかな場合や医療行為により予期せぬ形で患者が死亡したケースに絞り込んで義務付けている。医療機関は調査委への届け出が義務化される代わりに、警察への通報義務が不要になる。
調査の結果、事件性が疑われる場合は警察に通知する。その場合(1)カルテの改ざんや事故の隠ぺい(2)過失により事故を繰り返す「リピーター」による行為(3)故意や重大な過失―のいずれかに限定している。また、遺族からの刑事告訴があっても、警察は調査委の調査結果を尊重しながら捜査するかどうか判断するとしている。
この原案は、警察の捜査を大幅に制限した形になっている。「過失がはっきりしない事故まで捜査対象になると、医療が委縮する」という医師側の意向に配慮したものだろう。訴訟リスクが減ることで、産科などの医師不足対策にも効果が期待される。
しかし、あまりに対象を限定しすぎると、警察の捜査に委ねるべきケースが埋もれてしまう恐れがあるのではないか。警察独自の捜査が必要な時もある。
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